今回の記事では「男性保育士の役割について」お話します。
男性保育士の歴史-「保母」「保父」から「保育士」へ
いまでこそ「保育士」という呼称が定着しましたが、「保母さん」という呼び方を聞いたことがある方は多いことと思います。ご存じでしょうか。かつて、保育士資格は1999年までは「保母」という名称でした。
私が資格を取得した約15年前は、既に法改正がされたあとでしたが、少し年配の方は何の躊躇もなく当たり前のように保母さん、と呼んでいました。
男性が保育の仕事に就けるようになったのは1977年の児童福祉法改正後です。その頃、男性は「保父(ほふ)」という俗称で呼ばれていましたが、これは資格の正式名称ではなく、あくまでも資格の正式名称は「保母」でした。
その後制定された男女雇用機会均等法に合わせて児童福祉法施行令が改正。ようやく、資格名が男女のイメージを問わない「保育士」と改められました。
今の男性保育士にとっては、とても重要な保育士の歴史です。今でこそ、職業選択が性別によって分け隔てられることがなくなりつつありますが、以前は保育現場は女性の職場だったのですね。
男性保育士って すごい!
学生の頃の私は、クラスメイトの男子が「男性保育士です」と自己紹介することに抵抗を感じていました。女性は特段「女性保育士」とは言いませんから。「保育士」なのであれば、「男性」だからという驕りや言い訳は不要ではないか、という考え方でした。逆を言うと、私に不出来なことや、逆に特別秀でた部分があるのであれば、それは保育者として、人としての技量で、女性であることは関係ないのです。その時、わざわざ性別を協調する「男性保育士」という表現は、言ってしまえば、どこかずるいような気がしていました。
しかし、未熟で世間知らずな私は、卒業後、いろいろな場所で男性保育士との出会いを通して保育の遊びの醍醐味を学びました。「対人援助職」にとって、性別を含む自身の特徴や特性、経験してきたことは大きな武器になり、強みとなることを教わりました。
ある先生からは、男児の遊びの世界をよく解説してもらいました。男の子が夢中になる遊びの仕組みや、広がりのヒントなど…廃材工作、昆虫採集、サッカー、川遊びの面白さ。
白熱するドロケイの様子を「誰だって、ヒーローにも、悪者にもなってみたいんだよ」と捉え、遊びの中で思いっきり悪役を楽しめる雰囲気づくりを展開した保育士。目から鱗の視点でした。
喧嘩した後の様子の見守り方、効果的な言葉かけ。あえて奮起させるための叱咤激励など…男性の視点から教わるひとつひとつは、私の子どもを観察する視野を大きく広げてくれました。
職員劇で女王様を熱演し、いきいきと自分を表現する勇気と楽しさを、ダイナミックに子どもたちに示した男の先生もいました。あべこべの世界に釘付けになって喜ぶこどもの反応は、女性職員が王様役になるのに比べ、雲泥の差。なんだか悔しい気もします。
男性保育士として「不安もあります」
一方、まだまだ少数派の男性保育士です。本校の学生も、圧倒的に女性が多く、女性勢力は強めです。将来を選択するとき、不安なことはありませんでしたか?と学生たちに聞いてみました。
「最近、男性保育士が園内、施設内で事件を起こして逮捕され、報道されることがありました。
子どもに手をだすなど言語道断ですが、ネットの意見を見てみると、子ども(女の子)がいる所に男性がいること自体が悪だという意見もあり悲しいです。」
「真面目に働いている男性保育士もいる中で、事件を起こす一部の男性保育士と一緒にされていないかと、不安、心配はいつも心のどこかにあります。
男性保育士のイメージが悪くならないような世間になってくれたらと願っています。」
「保育業界がそもそも昔から女性がする仕事という見方(偏見)があるので、男性保育士はまだまだ世間から疎まれる存在なのではないかと思います。
また、男性保育士の子どもへの性暴力の増加も男性保育士の信頼度を大きく損ねる原因となっていると感じます。
信頼度という点で、男性保育士は女性保育士よりも劣っているのでは無いかと私は考えます。」
男性が保育者としての不安を吐露する場面にこれまで多く出会いました。
この仕事に魅力を感じ、真剣にこの業界で生きていきたいと願うみなさんを、どう励ますべきか、私が言えることはなんだろう、届けられる希望ってなんだろう…と、いつも考えています。
男性だから!任せてほしい。保育学生が考える「男性保育士の役割」
卒業生、在校生の男性学生に
「男性であるからこそ、保育現場で胸を張って言えることはなんですか?」
と聞いたことがあります。そこで出てきたのは、私には予想できなかった力強い言葉でした。
「男性は外の遊びは得意だと思います。私も子どもの頃はやんちゃで色々な遊びをしてきました。男の子の気持ちを理解するのは負けません。」
「男性は一応女性より体力がある点で外遊びなど、体を動かす活動などでその能力を発揮できるはずです。」
「男性の保護者が質問や相談をしやすいという点は、女性より秀でているのではないかと思います。」
「女性の輪の中に自分だけがいるのであれば、絶対に他の人が思いつかない面白い企画を出す自信はあります。そしてそれを子どもが選んでくれる自信ももちろんありますよ。」
「男性の保護者の対応、力仕事、体を動かす活動などを任せられる所が利点だと思います。また、保育園の防犯面でも男性保育士がいた方が多少効果がある気がします。」
「子ども達の中には男女の壁を感じ異性のクラスメイトと関わることに抵抗がある子もいるのではないでしょうか。このような子どもの前で男性保育士と女性保育士が仲良く話している姿や協力して保育している姿をみて、子ども達も男女の壁を破って関わりを持つきっかけになるのではないかと思います」
「昔と違い性別で職業が決まらない、性別の差別が見られなくなったように、これからの時代に合った職場で働けるのも良い効果だと思います。
女性の多い職場での人間関係は色々大変だと思いますが、男性がいることで、雰囲気が少し変わるかもしれません」
男性であるという、そのありのままの事実がまさに現場での強みにきっとなる!
現場から求められている存在であることも、感じます。
「男性である上で保育士として働くというのは、とても尊いことだ」と、たくましく伸びようとする男性の保育学生の姿から、いつも思うのです。
♪せかいじゅうの こどもたちが
いちどにわらったら
そらもわらうだろう ラララ
うみもわらうだろう
ひろげよう ぼくらのゆめを
とどけよう ぼくらのこえを
さかせよう ぼくらのはなを
せかいに にじをかけよう –
(「せかいじゅうのこどもたちが」中川ひろたか作詞・新谷としひこ作曲)
日本全国の音楽の教科書に載っている
「せかいじゅうのこどもたちが」という歌をご存知でしょうか?
気持ちを乗せて歌いやすい、明るい楽しいこの楽曲を作ったのは、日本初の「男性保育士」である、中川ひろたか氏です。(中川先生、実は大宮のご出身なんですよ。)
子ども心を忘れない!こどもの気持ちを今も持っている大人を子どもたちは慕います。
老若男女のこども心をくすぐり、明るく元気づけ続けている中川先生は男性の保育士です。
保育者が女性であっても、男性であっても、こどもたちが私たちに求めているものは、あたたかい「共感」です。
だから、性別を問わず「子どもが好き」な人に、この世界へ飛び込んできてほしい!と思っています。
<今、進路を決めかねている、男性のあなたへ。>
あなたの力強い手を待っている子どもは、日本中にたくさん、たくさんいます。
ご自身の人生経験が、どこかの男の子を勇気づけるきっかけになるかもしれません。
あなたが語る子どもとの遊びのエピソードは、働くお父さんの気付きになるかもしれません。
大きな体は弱い命を守ることのできる、強い盾となるかもしれません。
保育園以外にも、児童養護施設、児童発達支援施設なども、活躍どころは多く、そして重宝される男性保育士です。
保育って、「子守」ではない、人の成長の営みを支える…クリエイティブな仕事、なんですよ!