保育⼠の役割とは


かつて、幼稚園時代の恩師に憧れ「自分もいつか保育者になりたい」と思っていた頃、保育士の仕事というのは

「赤ちゃんのお世話をする」
「一緒に遊ぶ」

そんな漠然としたイメージだったような気がします。それはそれで部分的に間違いではないのですが、そこに必要な専門知識や技術があるのが「保育の仕事」であるということ、そして、保育士は「与える人」ではなく「大きくなろうとするこどもを支える人」という役割があることを、現場で出会ったたくさんの子どもたち、保護者、専門職の方々、そして同僚、先輩が教えてくれました。
なんだかややこしい表現をしましたが、今の私だから話せる「保育士(者)の役割」、保育の専門性についてお伝えできたらと思います。

保育は養護と教育が一体的に行われる営みである

保育における「養護」とは


子どもたちが食事や排泄の自立など基本的生活習慣を習得するまでを支え、情緒の安定を保証し、愛着関係を築くという役割を持つ、保育士。その営みを「養護」と呼んでいます。

小さく弱い時期であればあるほど、大人の手を必要としますね。育ちは個々で違うので、養育歴を知ること、健康状態を知ること、個性を知る目が人数分必要になります。例えば食事の場面でいうと、口腔内の発達や特性を掴み、それに相応しい形状、味付けなどの指揮を取る管理栄養士や調理士へ連携をとるのは保育士です。

「お世話」するだけではなく、健康観察の視点や記録の残し方、保護者への共有方法を通じて家庭育児を支援する役割もありますね。例えば、おむつからパンツへの移行=トイレトレーニングは、特に保護者と保育士で同じ方向性を持ち、一緒に取り組みたい課題です。

養護の上で何より大切な役割は「少し大きくなることを、子どもと保護者と、喜びあう」ことかもしれません。その嬉しい存在が、子どもの生きていく力の基礎を支え、子ども自身を元気づけます。

日本の保育の創始者である倉橋惣三は「保育とは自ら育つものを育てようとする心」と言いました。そう思うと、保育士は人が人として社会で生きていく上で欠かすことのできない力を獲得するための、重要なキーパーソンともいえるでしょう。

保育における「教育」とは


保育士にとって「遊び=教育のプロである」ということも、いつも念頭におきたい役割です。乳幼児期の「教育」とは、「子ども主体の遊びを支える」ということ。

平成29〜30年に文部科学省が「新しい学習指導要領」を提げました。

これまでのこどもの学び方が従来の「知識を与えられる」受け身の授業であるとするならば、これから生きていく子どもは「教えられる」のではなく、「自ら学ぶ」ことが本来の学びであると示されています。すなわち、それが「主体的・対話的で深い学び」でありそのための学び方として「アクティブ・ラーニング」があります。

学習指導要領の改訂は幼児期の教育の根幹である「幼稚園教育要領」も対象となり、幼児教育、保育の現場でも保育内容の工夫が必要であると、この年「幼児教育」の在り方について注目されました。

遊びの中の学びの芽

平成最後の年。新カリキュラムの動きに応じ、それまで詳細に決められていた既存のカリキュラムを飛び越えて「日々を子どもと作る」ということに挑戦した1年間は、今でも忘れられません。

子どもたちの「涼しい部屋で昼寝がしたい」という何の気ない呟きがきっかけとなり、保育室をプラネタリウムに改造する夏を過ごしました。

秋は、覚え始めの文字と数字に夢中でした。測ったり数えたり、読んだり書いたりしながら、超大量のスイートポテト、ホットケーキ、シャボン玉液を作ってあちこちにふるまい、大満足だったこどもたちです。

仲間と歩んだ1年間を思い返し、みんなで詩を紡ぎ…1年生になろうとしている自分たちを、自分たちなりに励まそうとした冬の日々も、かけがえのない思い出です。

これら全ては、年度当初の計画にはまったくありませんでした。

私はというと、子どものつぶやきを拾い、意見を集約し、予定を調整し時には提案しながら、思いに応えるべく資材を調達、時間と場所を確保することに必死だったように思います。全体を見る中でひとりひとりの活躍を見届け、時には一緒に悩んだり、面白がったり落ち込んだり、一緒に毎日に夢中になる中で、遊びはどんどん広がっていきました。

あの時5歳児だったみんなは、気付けばもうすぐ中学生。「やってみたい」「知りたい」「教えて欲しい」「僕を見て」「それっていい考え!」「みんなで一緒に‥‥」と一生懸命遊んでいたあの子どもたちの姿に、アクティブ・ラーニングがあったように、確かに思うのです。

きっと今だって、それぞれの学びの場所で、自分の興味関心のあることに没頭し、ますます伸びようとしているはずです。

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子どもが遊びを、生活を自分たちの手で作る。その近くで、気持ちを受け止め、励まし、時にそっと手を貸すために私たち保育者がいる。ああ楽しかった!と家に帰り、また明日が来るのを楽しみにできる人になってほしい。そんな日々の中で自分に自信がつき、自分と仲間を好きになってほしい。この営みこそが「教育」です。その現場にいる保育士って…結構クリエイティブな仕事なんです!

なんだかわくわくしませんか?

未来の保育者へ

専門学校の教員が、こんなことを言ったら怒られてしまうかもしれませんが…5年間の保育補助を経た後10年間現場で働いた感覚から言うと、専門的な技術は後からでも、努力次第でついてきます。知識は卒業後こそアップデートが必要で、学校にいる時以上に気を抜けません。では、学校で過ごす2年間で得てほしいものは何かというと「子どもが好き」という嘘偽りのない気持ち。そして「この仕事を選んだ自分が好き」という自信だと、そう思います。

保育士というのは、どんな場面にあっても「こどもにとって嬉しい人」でありたいものです。

以下は私が現場にいた頃、教育実習生の日誌へ必ず書いていたコメントです。今は、折に触れて保育学生へ届けている言葉です。

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「ほいくえんのせんせい」という仕事は、世間的にはとても明るく、穏やかであたたかい雰囲気の仕事のような印象があります。

実際には、技術、知識、経験、体力、忍耐力や根性、コミュニケーション能力…と様々な素質が求められる仕事です。覚えることは膨大です。

ですが、何より大切なのは「子どもが好き」という気持ちだと思います。子どもは「僕たちのことを好きな先生」だとわかったら慕います。大好きな先生を見上げて走ります。

始まったばかりのこども人生のすぐそばで、「あなたが好き」という気持ちを笑顔で伝える人でいてください。それが保育者の役割です。

あなたの中に「子どもが好き」という気持ちが確かにあるのであれば、大丈夫です。

きっと、ますます伸びていけるはずです。

この記事を書いた先生

  • 保育士科
  • 保育士科 夜間主コース

上條 友葉先生

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