言語聴覚士のやりがい


今回は言語聴覚士のやりがいについてのお話します。

INDEX
■そもそも言語聴覚士とは?
■言語聴覚士の仕事内容
■言語聴覚士のやりがいについて
■患者様の感謝のことば

****************この記事を書いた人****************
言語聴覚士 大橋三広先生
【経歴】
・株式会社 リニエR
リニエ訪問看護ステーションすみだ(所長)
・日本言語聴覚士協会 介護保険部(代議員)
・日本口腔ケア学会 言語聴覚士部(副部長)
・東京都言語聴覚士会 地域生活支援局
地域包括ケアシステム部(理事・部長)
・東京都介護予防・フレイル予防推進支援センター
(広域アドバイザー)
・区東部地域リハビリテーション連絡協議会(幹事)
・墨田区在宅リハビリサポートコーディネーター
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言語聴覚士とは?

そもそも言語聴覚士とはどんな仕事であるかからお話します。

例えば大きな総合病院にあるリハビリテーション科などを覗くと多くの場合3つのリハビリに関する職種が働いています。『理学療法士(PT: Physical Therapist)』『作業療法士(OT: Occupational Therapist)』『言語聴覚士(ST: Speech Therapist 』の3つです。そのうち理学療法士は「歩く」や「立つ」といった体の基本的な動作や呼吸などのリハビリを行い、作業療法士は「お風呂に入る」「洗濯をする」といった応用的な行為動作や頭の働きなどのリハビリや精神的な疾患に対して対応していきます。

言語聴覚士の働き場所としては病院や高齢者施設に勤める人が多く、小児に特化したところとしては養護学校や放課後等デイサービスなど、耳に関しては耳鼻科、あと多くはないですが福祉機器に関するメーカーなどに所属する人もいます。この辺りの働く場所についてはまた別の機会でもお話したいと思います。
《広がる活躍の場》

言語聴覚士の仕事内容

言語聴覚士は「聴く」「話す」「読む」「書く」「食べる」といった点でリハビリが必要になった場合、治療や周囲の環境などを考えたりします。

代表的なものには高齢者で見られる脳の血管が切れたり、詰まったりする脳卒中の後遺症で起こりうる『失語症』というものがあります。これは言葉を考えることや理解すること、言葉のコントロールが難しくなる障害です。失語症になると、思っている言葉と別の言葉が出てしまったり、言葉が思い出せなくなったり、文字がわからなくなったりすることがあります。皆さんも子どもの頃に学校の先生に対して「お母さん」と言い間違えた経験がある人もいるかと思います。他にも有名なジブリ作品でとなりのトトロに出てくる幼い女の子のメイちゃんは「トウモロコシ」の事を「トウモコロシ」と言ってしまいます。これらはまだ子どもの時期でことばの発達の途中であるために言葉のコントロールがまだ難しくなってしまう場面があるだけですが失語症が重たくなればなるほどこういったコントロールのミスが頻回に起こりやすくなると思ってもらえるとイメージしやすいでしょうか。あと、そもそも物の名前が思い出せず「アレなんて言ったっけ、アレ」といった感じで身近な物の名前ですら出づらくなることがあります。

脳卒中で他にも起こりうるのが麻痺です。街を歩いていると片方の手足が動かしづらそうに杖で歩いている人など見かけたことがありますでしょうか。そういった人の中には脳卒中で片方の手足が麻痺になってしまった人もいるでしょう。この麻痺ですが手足だけの話しではありません。たとえば唇や舌やのどといった部分に麻痺が生じてしゃべりづらくなる障害もあります。そうなると「話す」だけでなく「食べる」「飲み込む」ことも難しくなってしまいます。

耳に関しては生まれつき難聴という子どももいれば、加齢による難聴という人もおり補聴器の調整などを行うこともあります。補聴器について補足をすると、そもそも音には高い音から低い音まで様々ありますが、難聴は全部の音が聞き取りづらいという訳ではありません。低い音は聞こえるけど高い音は聞こえづらいなど人によって差があります。高い音から低い音まで全部を増幅してしまったら場面によってはうるさくて使いづらいものになるのでこの人の耳はどんな状態だろうかと検査をして、その人の耳に合った調整をする必要があります。このように補聴器とはどの高さの音をどれくらい増幅させるかや雑音をどれだけ抑えるかなど中にあるコンピューターを調整して使うものであり、その調整を言語聴覚士が担うことがあります。

そもそもコミュニケーションは「話す」だけでなく文字や表情、絵など方略はたくさんあります。失われた能力を取り戻すために言語聴覚士は訓練をするだけでなく、その人にあったコミュニケーション方法を検討し周囲に伝え、人と人の繋がりが希薄にならないよう本人や家族に寄り添いつつ、周囲の環境を整え、生活の質の向上を考えていきます。

子どもの分野では生まれつき障害の持った子や病気やケガをしてしまった子など様々です。ことばの発達を促すことや、障害のある子どものコミュニケーション方法や学習方法の検討なども行います。また子どもは成長するにつれて課題が生じます。幼稚園や保育園の時期の発達の促しから、小学校に上がるのであれば学校選びからそこでの学習のあり方など検討が生じ、中学校では、高校では、その後の就職ではどうかなどなど長い目を見て関わり方を考えていかねばなりません。またご両親へのアドバイスや心のケアなども大事な部分になります。

言語聴覚士のやりがいについて

言語聴覚士に限らず他の医療従事者もそうかと思われますが、まず自分の知識や技術が人のためになっていることが感じられやすいというところがあるかと思います。私は小学校から高校まで成績も正直悪かった生徒で勉強に対してコンプレックスが多少あったこともあり、そんな自分でも現在は覚えた知識が人に役立っていることが感じられて非常に嬉しく思います。いろいろな人に頼ってもらえることもありがたいです。やりがいの感じられる仕事が見つけられて、自分は幸せな方だと思います。ただし、やりがいを感じるためにはこの仕事にどれだけ正直かつまっすぐ向き合えるかということが大事かと思われます。

私は言語聴覚士の養成校でも成績は悪かったです。追試の常連みたいな生徒でした。就職したての時も周囲からの評価は悪かったです。ただ、自分はある意味幸運なことに遅いスタートにはなってしまいましたが勉強に向き合い直すきっかけがありました。免許を取って2年目の頃のまだ経験が浅い時期です。ある高齢の患者さまで私の見解では「口から食べるのは一生難しいだろう」と考えたケースがありました。医師に報告したところ、その患者様は『胃ろう』という外から胃に直接穴をあけてチューブを刺して栄養を入れるやり方が決定となりました。現在は『胃ろう』になっても口から食べる方向も考えるようになりましたが当時は『胃ろう』になったら口からはもう食べないという考え方が主流になっていた頃です。その時に恐怖を感じました。「私のひとことでこの患者様は一生、口からは食べないことが決定してしまった。本当に自分の見解はあってたのだろうか。他に手はなかっただろうか」と初めてこの仕事に対する責任を実感しました。その責任の重さを感じたことで仕事に対する意識ががらりと変わり、その後は先輩だけでなく後輩にまで「この辺のことよく知らなくて教えて」とあらゆる人にも教えを請い、人生で初めて「勉強をした」と言えるほどあらゆる知識やいろいろな人の考え方などを知る努力が出来ました。今更ですがドラえもんのタイムマシンがあったら戻って贖罪のためにもリハビリしなおしたいくらいですが『後悔先に立たず』ですね。

現在も様々な相談が来ます。障害を持ったお子さんのご両親から「一度でいいから息子から『ママ』って呼ばれたいんです」と切実な想いを訴えられたことがあります。脳卒中になった高齢の患者様でふつうのご飯だと飲み込めなくなった人から「家族と同じ普通のごはんが食べたい」と言われたことがあります。失語症になったお母さんを介護している娘様から「お母さんがどう思ってるか知りたいし、なんとかしてあげたいけど、どうすればいいかわからない」と涙目で訴えられたこともあります。プレッシャーをすごく感じることもあります。しかし残念ながらリハビリテーションの訓練で全部が全部治せるものではありません。見解としては訓練しつつ他の方向性も提案することも少なくないです。それでも寄り添い提案し、相談し、本人と家族とともに一緒にあらゆる方向性を考え、周囲の協力を得られるように声をかけより良い生活に変っていったり、納得してもらえる提案などが出来た時の「ありがとう」という言葉は本当に救われます。『情けは人の為ならず』巡り巡って自分のためになるという言葉がよくわかりました。

患者様の感謝のことば

もちろんリハビリによって失われた能力を取り戻すことが出来たケースもあります。

80代の高齢の男性ですが、ある年に手術が必要な病気にかかり、その影響で体力も落ちただけでなく食べる能力が著しく落ちてしまいました。私に相談が来た時はいわゆる寝たきりの状態で、その時に食べれた物はドロドロのお粥のような物であったり、飲み物もそのままでは飲めずにトロミと言われるドロドロの状態に変えないと飲み込めない状態でした。

この状態からどうやって栄養を確保しつつ、口やノドの運動を促してなおかつ失われた筋力なども取り戻していくかを考えリハビリを進めていったところ、本人も非常にやる気が出てきて普通のごはんを食べられ、水分もトロミも付けなくてもそのまま飲めるところまで回復しました。やる気を出させるというのも腕のみせどころです。


動画①(↑画像をクリックすると動画が流れます)は回復されてリハビリは卒業となった時に記録したものです。普通に飲み物が飲めるようになった事で「すごいですね!先生のおかげ!」「トロミなしで飲めるようになるとは思わなかったな」と言ってくれました。この言葉で私のほうがどれだけ救われたことか。


動画の②(↑画像をクリックすると動画が流れます)ですが、このコラムを書くことで動画を出してもいいかの許可をもらいに2年ぶりに会いに行きました。現在も元気にされて、今はお酒もたしなんでいる様子です。この時も「この人は命の恩人」とまで言ってくださり、この動画の許可も快く「先生には恩があるから好きに使ってよ」と言ってくださいました。

言語聴覚士は言葉というコミュニケーション面や食事の面でのリハビリテーションを担います。言わば人と人をつなぐ仕事、食の楽しみを取り戻す仕事と言えるかと思います。特にこの分野では専門色も強く、他の職種ではなかなか担えない部分もあるため特別感があると思います。私も「このケースは言語聴覚士さんじゃないと相談できなくて」と頼られると嬉しくてがんばっちゃいますね。

そんな言語聴覚士ですがまだまだ受容はあるけど人手が足りない職種です。ぜひ興味を持って学校に入りたいと思ってくれる人が増えることを願います。

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