おすすめ絵本-保育現場の発達支援について考える

色々なこどものこと 多様性について知る絵本

幼稚園教諭として勤め、たくさんの子どもに出会いました。ひとりひとりが愛おしく、大切な存在でした。支援を必要とする子どもと、過ごしたこともありました。関わり方に悩んだこともありますが、心が通い合い、信頼関係が築かれたことは保育者としてのやりがいそのものでした。

要支援児と一括りに言っても、多動傾向、強いこだわり、コミュニケーション面の課題、言語面の課題など、支援を必要としている場面は子どもによって様々です。発達障害に対する早期治療や療育の専門家ではない保育者にとって、「どのように支援していくか」を考え、方向性を定めるのは非常に難しいことだと、常々感じていました。

支援の方向性を少し間違え「こうすることが最善だ」という、大人の一方的な見立てが、下手すると二次的な障害を引き起こす危険性もあります。良い支援、良い関わりのためには、まず、子どもを知るところから始めたいと思います。一人周りと違う子と否定するのではなく、その子の今をにこにこ見つめることが、保育者に必要な姿勢だと、そう思います。それが気付きと良い支援へ繋がります。

今回も、前回に引き続き、保育者を志す方にぜひ手にとって親しんで頂きたい絵本の紹介です。昨年、障害児保育の授業で読んだ、多様な子ども理解のきっかけになる絵本を集めました。「発達支援についてもっと知りたい」と思っていただけたら、嬉しいです。

オチツケオチツケ こうたオチツケ こうたはADHD

「オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD」岩崎書店

(さとうとしなお作 みやもとただお絵)

ADHD(注意欠如多動性障害)の特性として「多動性」「衝動性」「不注意」の3つが挙げられます。それが生活のしにくさへ影響し、たくさんの失敗を重ね、先生を怒らせ、友達を泣かせ、大切なおかあさんを悲しませてしまうこうた。こうたの味わう居心地の悪さ、やるせなさが痛いほど伝わってきます。

子どもが、特性故に自分を嫌いになることがないように。過ごしやすくなる方法を知り、日々を穏やかに過ごせるように…そのためには周囲が理解しようとあたたかく見守ること。その子の葛藤を見守り、行きつ戻りつする成長をじっと待つこと。そして正しい知識で適切な関わりをする必要をしみじみ思う絵本です。

ぼくは川のように話す

「ぼくは川のように話す」偕成社 児童書出版

(ジョーダン・スコット作 シドニー・スミス絵)

連発性の吃音のある小学生の男の子のお話です。

お父さんは「ほら、あれがお前の話し方だ」と川の強い流れのことを言います。

少年は波がしぶきを上げ、岩にぶつかりながら流れていく様子、その先の穏やかな流れに自分自身を重ね受け入れていく、その姿が印象的です。

保育者はいつも、子どもへなにかをしたくなります。思いが溢れ、言葉を多く掛けてしまいがちですが、子ども自身が必死に自分に向き合おうとしている時、葛藤している時…何も言わずにただ見守ること、そしてその子なりの気付きを待つことも、大切な支援です。この絵本に出てくるお父さんも、どれほど歯痒い思いを、不安を、もどかしさを飲み込んだことでしょう。

否定せず、焦らせず、待ち、認めてくれる存在の大きさ、そんな環境でありたいと心から思います。

この本の作者ご自身が、幼少期からの吃音と付き合ってきた方です。言葉に悩み、つまづくこともあったであろう作者が、言葉を紡ぎ、メッセージを届ける詩人となりご活躍されていることにも、感銘を受けずにいられません。

みえるとかみえないとか

「みえるとかみえないとか」アリス館

(ヨシタケシンスケ作 伊藤亜紗 相談)

「これが普通」と思っていても、相手にとっては普通ではない。

自分の当たり前と相手の当たり前は違うということ。相手のことを知れば知るほど、相手の求めているものが見えてくること。

そんな「多様性」を尊重し合う大切さを、自然に、素直に受け入れることができる絵本です。

いろんな子がいます。成長の歩みも、胸の内も、気持ちの揺れ方も…ひとりひとり違います。「普通、こうでしょ!」「一人だけ、へんだよ」そう言わず、子どものありのままを受け止め、あたたかい手を差し伸べられる保育士になってほしいと願い、障害児保育の一番最初の授業で読みました。

さっちゃんのまほうのて

「さっちゃんのまほうのて」偕成社

(たばたせいいち作絵 先天性四肢障害児父母の会 のべあきこ しざわさよこ 共同制作)

先天性の四肢欠損障害のさっちゃん。さっちゃんの片方の手には、みんなにはある5本の指がありません。「ゆびがないさっちゃんは、おかあさんにはなれない」と、おままごとの最中に言われてしまいます。

周りの子どもが、違いに気付き口にするのは当たり前。そして、広い世界をまだ知らない小さな子どもが、人と自分が違うことに不安がったり、興味をもつのは当たり前です。

そんな時、どの子のどの思いも決して否定せず、そのままのあなたがどれだけ尊いか、一人一人に向き合う保育者でいたいものです。

終わりに

昨今の情報化社会により、様々なメディアで目に見えない障害について取り上げられることが増え、情報が手に入りやすくなりました。発達障害、支援の必要性が知られるようになったのは良いことです。

しかし「目が合わない。なら自閉症だ」「多動傾向がある。ADHDに間違いない」というように、保育者が根拠のない予測、偏った知識で安易に障害名というラベルを貼り「この行動を今改善しないと将来的にこの子が困る」と、訓練的な行動調整を試みる場面を見かけると、その子が自信をなくしてはしまわないかとすこし心配になります。

保育者の仕事は、診断を下すことや、障害特性を無くす訓練ではありません。もちろん知識は大切です。その年齢の発達段階を理解した上で、学級や個々を確実に理解し、適した関わりかたを継続、必要に応じて保護者や機関との連携を図る、それが保育者の専門性です。ただし、ひとりひとりの本来の良さや成長の可能性を後回しにするのは間違いです。

そうではなく、「もっとこの子のことを知りたい」「障害特性について学びたい」「良い環境でありたい」と、保育者が自身を良い環境と整えたいものです。そのきっかけになればと願い、今回4冊をご紹介させて頂きました。

この学校へ来て保育士科の学生の皆さんと会い感じたのは、みんなが本当に心優しいこと。誰かのために手を貸すことを喜んでしてくれる方が多いということです。学校名に福祉と掲げる本校に、そのマインドを持つ保育学生が多数集っていることを、いつも誇らしく思っています。

 

 

この記事を書いた先生

  • 保育士科
  • 保育士科 夜間主コース

上條 友葉先生

おすすめコンテンツ

    • 先輩が教える学校の魅力
    • Senior Interview 業界で活躍する先輩インタビュー
    • 埼玉福祉で働く先生
資料請求 オープンキャンパス LINE相談