保育の仕事は「重労働の低賃金?」
ずいぶん昔から今に至るまで、特に女の子の「なりたい職業ランキング」では常に上位を誇る「保育士」です。
ところが昨今SNSでは低賃金の重労働ともイメージづけるような保育士の処遇改善を求める発信が相次いでいます。ネットサーフィンしていると必ず目にする「こんなに大変なのに割に合わない安月給!」「重労働なのにこんなに安い!!」という文言を見て、不安になったことのある方はいませんか?
こんなふうに聞くと、
(子どもは可愛いけど…仕事のやりがいはありそうだけど…生活がままならないのであれば、諦めようかな)
と心配にもなりますね。特に男性の中には「将来家族を養っていくことのできる職業だろうか」と案じ、諦める方もいるかもしれません。
そんな夢のない辛い仕事ではないよ、と言いたいのが今回のコラムです。
保育士の給料はいくら?年収はどれくらい?
「賃金構造基本統計調査の概況」(R3年)のデータによると、女性一般労働者の平均賃金は約25.3万円/月だそうです。また、同調べ(R4年)によると20代の保育士の給与はおよそ約22.3万円/月。
ここから社会保険や所得税が差し引かれると、やはり少ない給料のようにも見えますね。
ですが、今や有資格である保育士は様々な加算手当が複雑なほどに充実してきました。
例えば国の施策である「保育士処遇改善手当加算」。一定年数の経験がある保育士が、条件を満たし規定の「キャリアアップ研修」を受講することで役職を与えられ、それに相応しい加算がつくというものです。(処遇改善加算Ⅱ)
2022年の2月から9月まで、保育士の労働過多、人員減などの状況を鑑み「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業」実施。これにより、保育士の給料の約3%(月額9,000円)が給与に加えられました。(※期間以降は処遇改善Ⅲとして補助がついています)
他にも、本校のあるさいたま市では「保育所を運営する社会福祉法人等に施設の運営改善と児童、職員の処遇改善を図ることを目的」とし、市独自の上乗せ補助を実施しています。 ※ 常勤職員1人あたり、年額193,500円を加算(月額10,500円×12ヶ月+期末手当67,500円)。
国や自治体以外にも、園独自としての加算制度として「担任手当」「日直手当」「早番・遅番手当」「バス添乗手当」などが求人票などでよく確認されます。また、時間外給料が発生しないように、残業を防ぐ取り組みが広がってきていることも、大きな時代の変化です。
他にも、「大型免許を取得し、園バスの運転も担うことで給料UPした」という話を聞いたことも。
保育士処遇改善とは
先述した政府の保育士処遇改善についてですが、保育業界ではキャリアに応じ相応しい加算を得ることができるように、「副主任保育士」や「専門リーダー」という役職ができました。これは離職率を下げ、更に中核を担う保育士が育ち、専門性を磨くことが目的です。
実際の私の例ですが、2017年に開始された「保育士処遇改善施策(処遇改善等加算手当Ⅱ)」を受講、キャリアアップ研修受講の上で月額2万円が加算。2021年の教諭10年目には年収は新卒の頃と比べものにならないほど上がっていました。
その後転職し、現場での受講は叶いませんでしたが「中核リーダー研修」の展望もあったように、まだまだ高度な研修を受講することでさらに加算(上限月4万円/月)が期待できました。
つまり経験値が特定の研修制度への切符になり、研修での新たな最先端の学びを得ることでまさに「キャリアアップ」に基づいた年収UPが見込めるのが、「保育士処遇改善施策」です。
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私はとてもタイミングが良かったな、と思います。ひと昔前だったら、そもそも処遇改善のための研修制度はなく、入社時契約通りの昇給ペースでしか増えませんでした。
勤務年数が一定年数以上であることも本研修の対象となったという点では、子どもたちと保護者との出会いや、同僚、職場に恵まれたことにも感謝です。苦しい時期はもちろんありましたが、「ここまで続けてよかった」と思えたことは覚えています。
やりがいはお金では買えないと言いながらも、やはり給料アップは「また頑張ろう!」「もっと学び続けよう」というモチベーションになりますね。
やりがいはお金ではない…はず
保育士は、時代と共に処遇改善=働き方と待遇の見直しが図られるようになってきました。
コロナ禍で、経済の歯車の回転が止まりそうになった時にも、その動きを止めるなと言われた職業がありました。そのうちのひとつが「保育」です。保育というインフラが社会にないと、どの職業も安心していまの時代を乗り越えることができないとさえ言われたのです。介護や保育など生活維持に不可欠な「エッセンシャルワーカー」を対象に「特別給付金」が支給されたこともありました。
また、保育士は本校のような指定養成校を卒業したら、国家資格を取得できます。
一度取得すれば、更新の必要はない一生物です。今取得することで、将来さまざまなライフステージへ歩みゆくあなたの生活を助けてくれるお守り、武器になるはずです。
そのような視点で考えると、単に給与水準だけで「保育士は処遇が悪い」とは言い切れません。「この資格があるから仕事がある」と考えると、とても心強いことです。
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本当に、保育は安月給の重労働なのでしょうか?
過酷な激務を強いられた上で低賃金しか得られない悲しい仕事なのでしょうか?
実際に幼児教育・保育の世界で働いた経験からいうと、やはり「専門性」が必要不可欠な専門職であると思うのです。そして保育士の給与は、その専門性へ支払われているのだとも。多岐にわたる保育技術、考察と推察の力、問題解決力、計画と記録と評価の取り扱い方。
実習を重ね半ば訓練的に身につけた広い視野とこどもとの関わりかたを学ばずして、30名のクラス担任をすることなんてできませんでした。子どもの数だけある家庭との連携方法は、経験や“なんとなく”では担いきれませんでした。
力いっぱい勤務して支払われた給与は、世間的に見ればわずかでも私にとっては誇りでした。資格があったから、都内から地方へ転勤した時にもすぐに仕事が見つかり、生活が守られたという経験もしました。
今SNSで声高々に
「割に合わない安月給!」
「こんなに大変なのにこんなに安い!!」
と叫んでいる保育士もいるにはいますが、
「見合った評価を得るには、努力と実力が必要であり、それらが認められるためには時間も必要。そのチャンスは保育業界にちゃんとある。あとは自分次第」というのが、今回私の言いたいことです。
だから、専門学校で出会ったあなたを、鍛えたい、育てたい、本当の意味でこの資格を活かし活躍できる保育士へと導きたいと思うのです。見える仕事に忙殺される保育士ではなく、見えない専門性を磨き努力できる保育士であってほしいと思って、授業をしています。
【参考】
・「賃金構造基本統計調査の概況」/厚生労働省HP
・「子育て支援事業者の方向け情報」/こども家庭庁HP
・「保育士になるならさいたま市!」/さいたま市HP