【社会福祉士】手強い「国試」乗り切るには「対面」で学べる強み

この記事では国家試験やその勉強についてお伝えします。

INDEX
■学ぶ内容の科目数は多く、分野も幅広い
■変わる国家試験
■みんなで「学んだ」1年間

****************この記事を書いた人****************

2024年3月 埼玉福祉保育医療製菓調理専門学校
社会福祉士養成科 卒業生 K.Sさん

4年制大学を卒業後、北海道新聞記者として20数年勤務。
2023年4月に社会福祉士養成科へ入学し、無事国家試験に合格。
現在は社会福祉協議会に勤める。

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2023年3月末、自宅に「テキスト」一式が届きました。B5判20冊、合わせて約5900ページ。積み上げると、高さ34センチ近く、重さ11キロに達しました。

社会福祉士の国家試験(国試)は「19科目」。入学前、覚悟していたつもりでしたが、実際に「現実」として突きつけられると、正直、ひるみました。翌年2月4日の国試本番まで、10カ月。「本当に、勉強しきれるの?」。限られた時間と、道のりの険しさに、不安が募りました。クラスメートも同じ思いだったようです。

科目数も多く、分野も幅広い

社会福祉士の国家試験の手強さは、その科目数の多さと、分野の幅広さにあります。私たちは、「旧カリキュラム」の最後となる第36回試験(2024年2月)で、19科目(共通11科目/専門8科目)を受験しました。「新カリキュラム」に移行する第37回試験(2025年2月)からは、19科目(共通12科目/専門7科目)と総科目数は同じですが、各科目の分野や内容が再編されます。

新旧カリキュラムとも、講義・演習・実習を合わせた総時間数は1200時間で同じですが、実習が60時間増え、その分、講義が60時間減ります。これに合わせ、国試の設問数も変わります。旧カリキュラムは150問(共通83問/専門67問)でしたが、新カリキュラムは129問(共通84問/専門45問)。でも、学ぶべき内容が膨大なことに、変わりはありません。

なぜ、こんなに科目数が多いのでしょう? その理由は、社会福祉士という専門職の役割にあります。「困りごとを抱えている人たちの相談に耳を傾け、一緒に考えながら解決の道を探る」。でも、一口に「困りごと」と言っても、一人一人、さまざまです。高齢者、障害者、児童家庭、貧困など、一つの分野にとどまらず、複数にまたがったり、分野や制度のはざまで支援が行き届かずに困難を抱えていたりする人も少なくありません。「縦割り」ではなく、地域や分野を横断的かつ包括的にとらえる。そんな動き方が、ソーシャルワーカーに求められるようになってきました。

そのためには、人間や社会について、深く、幅広く理解を深める必要があります。まず「人への理解」(医学や心理学、介護など)。次に「社会への理解」(個人や家族、組織と経営、社会システム、法律など)。そして「制度への理解」(年金や医療保険、介護保険、雇用・労災保険といった社会保障、生活保護などの公的扶助、高齢者福祉、障害者福祉、児童・家庭福祉、地域福祉、虐待や権利擁護、更生保護、就労支援、行財政・福祉計画など)。さらに「社会福祉士という仕事への理解」(ソーシャルワーク・相談援助の理論やアプローチ法、面接技法や記録、効果測定、社会調査の方法など)。それぞれの成り立ちや背景を知るため、制度の歴史や経緯、さまざまな理論や、それを提唱してきた人物などについても学びます。

まさに「森羅万象」。でも、こうした土台があって、クライエント(相談者)と向き合う準備が整うと言っても過言ではありません。そうした資質を見極める一つの「関門」として、国家試験があります。

変わる国家試験?

社会福祉士やソーシャルワーカーのあるべき姿は、時代とともに変わっていきます。その要請に応えるため、国家試験も変わる必要があります。そうした流れを知る手がかりとして、厚生労働省が発表した二つの報告書があります。(1)「ソーシャルワーク専門職である社会福祉士に求められる役割等について」報告書(2018年3月27日)と、(2)「社会福祉士国家試験の在り方に関する検討会」報告書(2022年1月17日)です。いずれも専門家の意見や考え方を踏まえ、社会福祉士の役割や国家資格のあり方について、方向性を打ち出しています。

(1)は、社会福祉士の役割として、複合化・複雑化する社会課題の解決に向け、必要な支援を包括的に進めるコーディネーター役を担うよう求めています。その実践能力を持つ社会福祉士を養成するため、新カリキュラムへの再編につながりました。

(2)は、国家試験を通じ、ソーシャルワーク専門職として必要不可欠な基本的知識や技能が備わっているか、適切に確認・評価すると位置づけています。その上で、①基本的な知識を問う設問が適切に出題されるよう、出題内容を十分検討する②理解力・解釈力・判断力を問うことのできる事例問題の出題を充実させる—と提言しています。

合格基準は、総得点の60%程度を基準に、難易度で補正した点数以上を得点すれば合格とする基準の維持が望ましい、としています。社会福祉士の国家試験の合格率は、長年30%前後で推移してきました。しかし、他の福祉専門職の国試に比べて非常に低い水準で、特に「新卒」の低さには、報告書(2)の議論でも疑問が示されました。

これらを受け、厚労省は「社会・援護局長通知」(2022年4月25日)の中で、「質的量的拡充に向けて早期に対応を図る観点から」として、新カリキュラムに移行する第37回を待たず、第35回・第36回から段階的な移行に努めるよう求めました。合格率が、第35回で44.2%、第36回で58.1%と大幅に上昇したのも、こうした議論や経緯を踏まえたことが背景にあるとみられます。

私たちが受験した第36回については、「見て覚える! 社会福祉士国試ナビ2024」(中央法規)を編集した「いとう総研資格取得支援センター」が、興味深い分析を行っています。「難しい」「易しい」問題が例年より減り、「普通」問題のウエイトが高まったこと。文字数が過去15年で2番目に少なかったこと(選択肢が「文章」でなく、「単語・文節」の問題が多かった)。「一問一答形式」よりも「事例問題」(解釈型、推論型)に比重が置かれ、特に理解力・解釈力を問う「解釈型」が大幅に増えたこと。

合格率が上がった分、簡単になったかというと、必ずしも、そうは言い切れないと思います。事例問題が増えた分、「考える」ことに多くの労力と時間を費やした印象ですし、基本的な知識・理解力を問う設問の比重が大きくなった分、基礎的な学力が身についていないと、逆に「手も足も出ない」というのが、率直な感想でした。

クラスメートの中には、受験勉強の終盤で、しっかり基礎固めに徹したことで、12月の最後の模擬試験(模試)より、国試本番で十数点、上乗せできた人もいました。

過去問の中には、制度のかなり細かい知識を問うたり、奇をてらったりしているような設問も見受けられましたが、今後はもっとオーソドックスに、正攻法で基礎的な知識や理解力を試す設問が増えていくのではないか。そんな印象を持ちました。

みんなで「学んだ」1年間

ともあれ、「19科目」と向き合わなければならないことに変わりありません。基本的な知識を、これまで以上に、よりていねいに理解し、記憶に定着し、思考力を養っていく必要が出てきた、とも言えます。

インターネット上では、「3カ月で合格した」など、短期間で目標を達成された方の体験談が紹介されていますが、参考にできるのは一部の人でしょう。実際、医療・福祉分野で実践経験のあるクラスメートでさえ、この1年間、「19科目」と必死に格闘していました。数カ月という短期間で攻略するには、「19科目」は、あまりに多く、幅広い。しっかりと理解し、長期記憶として定着させながら、積み重ねていく。「回り道」に見えて、これが確実な近道だと、1年間学んで実感しました。

「働きながら」「子育てしながら」というクラスメートも多く、夕方から夜にかけて1日3コマ(90分×3コマ)の「講義」「演習」以外に、充てられる勉強時間には限りがあります。それだけに、「講義」や「演習」の中で理解を深めることが大切でした。

学んでいくうちに、「理解」や「定着」のためには、いろいろな「取っ掛かり」が必要だということも実感するようになりました。例えば、演習や職場見学。これらを通じ、座学(講義)で学んだことが、自分の中で「立体的」に結びついていくことに気付きました。実務経験の豊富な講師の先生方も多く、実践に裏打ちされたエピソードや体験談は、社会福祉士という仕事を具体的にイメージし、なぜ、その知識が必要なのか、理解する手助けとなりました。

休み時間、先生やクラスメートに質問したり、下校途中に学んだ内容を振り返ったり、模試の結果に伸び悩むクラスメート同士が、午前中や、講義前の「サポートタイム」に、空き教室や図書室に集まって一緒に勉強したり。年末年始には、公立図書館の会議室を朝から夜まで貸し切り、正月返上で勉強するグループもありました。

講義は「通学」に加え、「オンライン」も併用できました。仕事や子育てに忙しかったり、悪天候だったりした際、オンラインを積極的に活用するクラスメートもいました。それでも、みんな、基本は「通学」でした。次第に、一緒に食事したり、定期テストや模試の後に飲みに行ったり。毎日のように、顔を合わせているからこその「つながり」が生まれました。

「ソーシャルワーカー」の基本は、「対面」です。だからこそ、日々、顔を合わせ、学べる環境は貴重でした。

あるクラスメートは、こう振り返ります。「ある時期から国試対策だけでなく、ソーシャルワーカーとして実践現場で通用するためには、どうすればいいのか。それが、目標になってきた」と。そんなふうに、意識が変化してきたと言います。

夢中で受験勉強に没頭していると、国家試験合格が「最終ゴール」に思えてきます。でも、ソーシャルワーカーに向けた最終ゴール(スタート地点)は、その先にあります。国家試験は、その途中の一つの関門にすぎません。その思いは、国家試験後に、約1カ月にわたる職場実習を経験したことで、いっそう強くなりました。実践の現場で通用するために、学ぶべきことが、まだまだ、たくさんある、と。

「19科目」「5900ページ」「34センチ」「11キロ」。これよりも、もっと重く、もっと深い「学び」の続きが、実践の現場で待っている。

テキストを積み上げた「あの日」から1年たった今、そうかみしめ、新たな思いで次を見据えています。

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