絵本は子どもにどんな影響を与えるのか ー 絵本の持つ力、絵や言葉に込められた思い ー

年度 2022
学科 保育士科 夜間主コース

キーワード

絵本・魅力・子どもへの影響・読み聞かせ

1.はじめに

 保育現場では、絵本の力に驚かされてきた。保育士の読み聞かせや自分が読み聞かせをしたとき、それまでの喧騒が嘘のように子どもたちが絵本にくぎ付けになった。率直に言って、絵本は手軽で便利なツールであると思った。絵本が持つ力、子どもに与える影響について知りたいと感じた。

2.子どもへの影響

(1)「自己肯定感」の強い子どもになる
子どもの心は「体験」や「周りからの扱われ方」などで成長する。5 歳くらいまでは、絵本を通じてできるだけ様々な良い体験をさせてあげることが子どもの心を丈夫に育てる。例えば、「きみのことが だいすき」、「しょうぼうじどうしゃ じぷた」の絵本から、その希望を感じることができる。「きみのことが だいすき」は、悲しい気持ちはふたをしなくていい、失敗しても間違えても、何かを上手にできなくても、みんなと同じようにできなくても、できる一歩から始めればいい、今のあなたはそのままでよい、とすべてやさしく包み込んでくれる、心細いときや苦しいときには特に心にしみる絵と言葉がつま っている。
「しょうぼうじどうしゃ じぷた」は、じぷたは働き者だが小さい消防車のため、火事が起きると他のハシゴ車や高圧車、救急車ばかりが出動して、なかなか活躍できない。ある日、山小屋で火事が発生し、出動要請がくる。いつも活躍しているハシゴ車や高圧車たちは道の狭い山の中まで入っていくことができない。そこで小さいじぷたが出動して火事を消し止める。この大活躍をきっかけに、じぷたは見直されることになる。子どもはじぷたに感情移入し、自分の価値や存在意義を肯定する感情が芽生えるだろう。このようにすべてを受け入れる関わり方は子どもの自己肯定感を高める。子どもの自尊心を育み、自信を持たせることが「自己肯定感」の強い子を育てることに繋がる。自分、家族、友だちを大好きになり、常に物事を前向きにとらえて人生を謳歌するようになっていく。これが、絵本の一番大きい効果、効能だと考えられる。

(2)「人生のリハーサル」ができる
絵本で勇気や思いやり、友情、冒険のお話を読んであげると、子どもは「空想の世界」での出来事を「現実に起こったこと」として体験する。例えば、「もったいないばあさんのてんごくとじごくのはなし」、「やさしさとおもいやり」の絵本などからうかがえる。
「もったいないばあさんのてんごくとじごくのはなし」では、もったいないばあさんが天国と地獄を見に行く話だが、どちらにも大きな鍋に入ったスープと長いスプーンがある。地獄の人たちは我先にスープを飲もうとするが、スプーンが長くて誰もうまく飲めない。天国の人たちは、スープをすくって自分の向かいにいる人に飲ませる。飲ませてもらった人も同じようにスープをすくって相手に飲ませる。お互いに飲ませ合う思いやりがあれば、全員がスープを飲むことができ、なおかつみんなが幸せな気持ちになれることを教えてくれる。
「やさしさとおもいやり」は、肉食のきょうりゅう同士、わかりあえないと思っていたふたりが、お互いしかいない環境になったとき、ゆずりあい、助けあい、一緒に生きのびようとする。心が行動をきめること、だれかをおもいやる気持ちが大きな力になることを教えてくれる。
絵本は様々なことを「はじめて」体験することができる貴重な場であると言える。思いやりがテーマの絵本体験は、その子の性格に「優しさ」を与えてくれる。人と力を合わせる喜びがテーマの絵本体験は、その子に「人間に対する信頼」「団結力の大切さ」を教えてくれる。

(3)夢を叶えることがテーマの絵本体験は、その子の行動に「勇気」「未来への希望」を示してくれる。
昔話の絵本体験は「知恵と賢さ」を残し、怖い絵本体験は「乗り越える強さ」を教えてくれる。絵本の読み聞かせは、様々な「人生のリハーサル」を経験させてあげることもできる。例えば、「かちかちやま」、「ねないこだれだ」を通して体験できる。「かちかちやま」は性悪なタヌキが,畑で種をまくおじいさんを困らせる。おじいさんはタヌキを生け捕りにして家に帰るが、タヌキはおばあさんを殺す。おばあさんに化けたタヌキはおじいさんにおばあさんの肉を入れた婆汁を食わせて逃げる。ウサギがその仇討を申し出てタヌキを誘い出し、タヌキを溺死させ仇を討つ。この物語から感じたことは、そもそもおじいさんがタヌキを捕まえた時点で生け捕りにせず、その場で殺して持ち帰ればおばあさんを殺されることもなかったのである。おじいさんの後悔を自分のことのように感じ、自分ならこうする、と考える子どももいるかもしれない。
「ねないこだれだ」は、夜遅くまで起きているとおばけの世界に連れていかれてしまう話。古い時計が鳴ったり、ふくろうや黒猫、泥棒が出てきたり、夜の不気味な雰囲気を感じる。夜中まで起きていた男の子は最後におばけの世界に連れていかれる。絵本でリハーサルを繰り返すことで子どもは強くなり、困難を自然に乗り越えるための「生きる力」や「折れない心」を手に入れるだろう。

(4)「絶望」より「希望」を抱ける子どもになる
絵本は必ずしもハッピーエンドではない。「やきざかなののろい」、「たべてあげる」には、シュールな結末や残酷な場面、悲しくなるセリフがある。
「たべてあげる」は、ピーマンの嫌いな少年が、誰か食べてくれないかなあと思うと、小さな男の子が現れ、食べてくれる。残さず食べた少年は母から褒められる。次に人参も嫌だったので小さな男の子に食べてもらうが、次第に少年はわがままになっていく。そのうち男の子は少年の嫌いではないものまで食べて少年よりも大きくなってしまう。少年はこんなのはイヤだと言うと、それを聞いた男の子は、「食べてあげる」と少年を食べてしまう。少年は男の子の胃袋の中で反省する。少年とすり替わった男の子は好き嫌いがなく、そのことに気づかない母は男の子を褒める。少年は男の子の口の中で「もう好き嫌いしないよー」と叫んで絵本が終わる。残酷な終わり方にショッキングだと感じる子どももいるだろう。しかし、絵本でこれらの体験をすることは悪いことではない。それは何があってもそばに自分を守ってくれる人、すなわち「安全基地」があるため、子どもは安心して体験できる。
この体験が、いつか現実世界で恐怖を体験してしまったとき、「絶望」を抱くより先に「大丈夫」という想いが湧き、「希望」を抱くことができる。それは、乗り越える方法を考えるチャンスを与えられる。ひとりで考え、決断を下し、自分の選んだ道に自信を持ち、あらゆる困難を乗り越えて、生き生きと進む。絵本を通じて何が起こったとしても「希望」を抱き、生き抜いていく力を贈ることができるだろう。

3.まとめ

 絵本の世界からは、親や身近な大人の生き方以外にもいろいろな生き方、世界があることを知るきっかけになり、様々な能力を豊かにするのをおおいに手助けしてくれると感じた。それは学校の成績の良し悪しよりもっと大切なこと、大人になって社会で生き抜いていく基本的な力をつけてあげることのできるツールになるだろう。
 また、生きていくことは楽しいことや幸せなことばかりではなく、様々な苦しみを経験する。試験に失敗したり、仕事で取り返しのつかないミスを犯したり、大切な人を失ったり、病気になったり…努力では解決できない苦しみを抱えたとき、前を向いて生きていくためには弱い部分を含めて自分を受け入れることが必要だと思う。ありのままの自分を認め、高い自己肯定感をもっていれば、仮に何もできなくても存在しているだけで自分には生きている意味があると思える。子どもの頃に見た絵本が勇気や諦めない気持ち、高い自己肯定感など生きていく力の源になるのではないか。
そして、その先も希望を持って人生を生き抜いていくことができるだろう。

4.謝辞・文献一覧・参考資料

(1)今日から使える読み聞かせテクニック 景山聖子(一般社団法人 JAPAN 絵本よみきかせ協会代表理事) P168:2016 年 ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス P10 P11 P12 P13
(2)きみのことが だいすき 作・絵:いぬいさえこ P32:2022 年 パイインターナショナル
(3)しょうぼうじどうしゃ じぷた 渡辺茂男 絵:山本忠敬 P28:1966 年 福音館書店
(4)もったいないばあさんのてんごくとじごくのはなし 作・絵:真珠まりこ P36:2014 年 講談社
(5)やさしさとおもいやり 作・絵:宮西達也 P40:2015 年 ポプラ社
(6)かちかちやま 再話:小澤俊夫 絵:赤羽末吉 P2:1988 年 福音館書店
(7)ねないこだれだ 作・絵:せなけいこ P24 発刊年:1969 年 福音館書店
(8)やきざかなののろい作:塚本やすし 絵:不明 P32 発刊年:2014 年 ポプラ社
(9)たべてあげる 作:ふくべあきひろ 絵:おおのこうへい P32:2011 年 教育画劇

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