児童養護施設で暮らす子ども達の 学習に対する集中力を高めるには ー ~五感を刺激する“ながら学習”を通して~ ー

年度 2017
学科 こども福祉科

1.はじめに

 私たちは、児童養護施設で実習を行った際に宿題を教える機会があった。その際、子ども達同士で喧嘩をしたり、おしゃべりをしたりすることで宿題を行うのに時間がかかってしまう様子を多く目にした。そのため、施設の子どもは学習に対する集中力が一般家庭の子どもに比べて低いのではないかと感じた。
 原因としては、集団生活の中で他児からの刺激により情緒が不安定になることや大人に関わってもらう時間が少ないことが考えられる。
 2003年の和歌山大学教育学部教育実践総合センター紀要では、音楽を聴きながら学習することでリラックスして学習に取り組めたという研究結果が報告されている。そこで私達は、リラックスすることは集中力を高めることにも繋がるのではないかと考え五感(視覚・嗅覚・聴覚・味覚・触覚)を使った、“ながら学習”をテーマに研究を行うことにした。

2.現状把握

 近年、児童養護施設に入所する子どもの家庭環境には、親子ともに精神的に不安定な家庭や、子どもが親から虐待を受けている家庭などが多く見られる。さらに、貧困家庭、ひとり親家庭なども増えているため、学習環境が整っていないと考えられる。
 また、実際にさいたま市内のA児童養護施設で学習に対する行動観察を行ったところ、椅子を使って遊ぶ子どもや他の子どもにちょっかいを出す子どもなど、学習に集中していない子どもが多かった。
 一般家庭の子どもは、比較的自由に学習時間や学習環境を選ぶことが出来る為、児童養護施設の子どもに比べて、意図的であるかそうでないかに関わらず、“ながら学習”を行う家庭が多い。児童養護施設で暮らす子ども達は、集団生活の中で決まり事がある為、“ながら学習”を行う施設が少ないことがわかった。

3.仮説

 五感を刺激する“ながら学習”を実施することによって、子ども達の集中力が高まるのではないか。

4.研究方法

(1) 研究対象
 A児童養護施設に入所している小学3年生~5年生の全7名に、家庭にありそうな物を
 使い“ながら学習”を行う。その中から特に特徴のあった3名を対象とした。
 タクミくん(仮名)小学5年生の男子
 ハナちゃん(仮名)小学5年生の女子
 カイくん(仮名)小学4年生の男子
(2) 実施期間
 平成29年8月7日(月)~8月14日(月)の8日間
 時間 午前10時半~11時半  午後1時~2時
(3) 実施内容
 テレビを観ながら・においを嗅ぎながら・食べながら、飲みながら・音楽を聴きながら・物を
 触りながらの五感を刺激し、“ながら学習”を行う。

5.研究結果

 初日に聞き取り調査を行った際、苦手な科目の上位は国語と算数であることがわかった。そのため、宿題が終わった子どもには、苦手な科目を克服するため国語と算数の教材(漢字の読み・書き/百ます計算・四則計算など)を解いてもらった。

6.考察

 フィールドワークの結果、タクミくんには、アロマを嗅ぎながら学習することが効果的であった。アロマの「レモングラス」にはリラックス効果があり、学習に集中できたと考えられる。また、他児との関係によって気分が左右される傾向があり、練りけしを触ることや音楽(オルゴール)を聞くことによって、通常時で見られた周囲への苛立ちが抑えられ、問題が解けない時の気分転換としても効果が見られた。
 次に、ハナちゃんは、臨機応変に対応できる為、普段から集中力は高く“ながら学習”にも効果が見られた。音楽を聴きながら学習をすることが最も集中して取り組めていた。音楽の中でも歌詞がある場合は歌を楽しみながら教材に集中して取り組んでいた。歌詞のない場合も集中が続く時間は長く、落ち着いて教材に取り組んでいた。それは本児が普段から音楽を聴くことや歌うことが好きで、音楽に接することで、気分がよくなるからだと考える。
 最後にカイくんは、どの“ながら学習”にも集中できていなかった。スポンジの時は、投げる・叩くなどスポンジに意識が向いてしまい、香りつきマスクの時はマスクを着用することに抵抗があったため、学習に対して集中できなかった。カイくんは通常時の集中力は高いが、環境に左右されやすい為、“ながら学習”をすることで教材以外のことに意識が向いてしまい、学習に対しての集中力が低下してしまったのではないかと考える。

7.まとめ

 私たちは、児童養護施設で生活する子ども達へ五感を刺激する“ながら学習”を行うことで学習に対する集中力が高まるのではないかという仮説を立て、研究を進めてきた。“ながら学習”は一般的には学習に不向きだとされている。実際に行った結果、確かに集中力の妨げになる子どもはいたが、感覚を刺激することで、集中力が高まる子どもの方が多いと感じた。そこには、子どもの性格、人間関係、学習環境、学習レベル、ケアワーカーとの関わりなども影響していることが分かった。
 これらのことから“ながら学習”自体でも効果があるが、上記の要素を取り入れることで、個々にあった集中力の高め方を見い出すことができ、さらに学習意欲が高まるのではないかと考える。
 これから支援者になるにあたって、以上のことに配慮することで子ども達の学習意欲を高めていきたいと考える。

8.参考文献

菅千索・岩本陽介 2003 計算課題の遂行に及ぼすBGMの影響について‐認知的側面と情意的側面からの検討‐ 和歌山大学教育学部教育実践総合センター紀要No.13,27-36
秋吉久美代 2013 ニオイの好き嫌いの程度がヒトに及ぼすリラックス効果について 奈良県立医科大学医学部看護学科,23-31

保育士科【昼間2年制】

こどもたちとふれあいながら「保育」と「福祉」を学び、 こどもに関わる幅広い分野で活躍できる人材を目指します。

詳細はこちら