震災時に介護職として役割を担うために ~介護福祉士養成校での震災教育プログラムを考える~

年度 2016
学科 介護福祉士科

1.はじめに

2011 年 3 月 11 日の東日本大震災は、岩手、宮城、福島の東北 3 県を中心に各地に大きな被害をもたらした。最大震度 7 を観測し、1 万 5894 人以上の死者を出した。この地震はライフラインや物流が寸断されると共に液状化現象、地盤沈下といった現象を引き起こした。埼玉県でも震度 5~6 を観測し、45 人の怪我人がでた。直近では、2016 年 4 月 16 日に熊本地震、2016 年 10 月 21 日に鳥取地震が起き、いまだに余震が続いている。
首都直下型地震も懸念されているなかで、普段私たちは自分の身を守る訓練をしているが、介護職として他人の身を守る訓練をしていない為、何をしたらよいのかと不安がある。そのため施設にインタビューを行い、震災時に介護職としてどのような役割が求められているのかを理解することで、私達が将来施設で働く際に不安や戸惑いを少なくできるのではないかと考えた。

2.現状把握

まず、介護現場でアルバイトや契約社員等で働きながら夜間学校に通っている介護福祉士科Ⅱ部の学生 33 人に災害が起きた際に優先すべきことについてアンケートを行った。その結果、利用者の安全の確認・確保や自分の安全の確保、状況把握と考えているという回答が順に多かった。

また、災害に対する備えについての質問したところ、以下のような結果となった。
① 災害時のマニュアルを見たことがあるか? はい 48% いいえ 52%
② 防災・災害訓練に参加したことがあるか? はい 57% いいえ 43%
③ 災害が起きたとき、何をしたら良いか理解しているか? はい 78% いいえ 22%
このように、災害が起きたときに何をすべきか理解していると認識している一方で、職場でマニュアルを見たことがない、訓練に参加していない人が約半数いるという現状がわかった。

3.仮説

これから介護福祉士として現場に出る際に学生のうちに災害が起きた際の対処法を理解することで、就職後に直面するかもしれない震災に対する不安が軽減され、震災時もスムーズに動けるのではないか。

4.研究方法

・震災時の対応の実際についてのインタビュー特別養護老人ホーム N 施設(埼玉県内)
・介護福祉士養成校で取り入れる「震災教育」についてのカリキュラムとして必要な内容の作成

5.研究結果

5.1 N 施設の施設長からのインタビュー内容
① 震災時のマニュアルの有無
・ある (介護職本人に必要な夜間対応マニュアルはフロアに掲示している)

② 利用者の安全確保の手順
・気持ちを落ち着かせる
・職員が近くにいる利用者を一番近い非常口へ誘導する
・誘導係は居室にいないことが他の人にわかるように目印をつける
・頭を守るためにヘルメットを着用する
・利用者が戻らないように見守り寄り添う

③ 東日本大震災時に行った一次対応
・慌てている利用者に寄り添う
・飲食物の確保
・利用者の状況を家族へ連絡
・外部からの訪問に対するセキュリティの強化

④ 学生の時に学ぶ事、できる事は何か
・救命救急についての学習
・実習時に起きた際には見守りの役割を理解すること

⑤ 養成校に望む震災対応に関するカリキュラムとは
・パニック状態を緩和するため、冷静な対応ができるようにしてほしい
・経験に勝る知識がないので防災を体験する機会をもってもらいたい

5.2 養成校に対する震災教育カリキュラムの提案
インタビューでの聞き取り内容をふまえ、震災に関する教育としてプログラムの提案を作成した。

6.考察

施設へのインタビューを行うことで、私たちに必要なのは、震災時の対応に対する不安の解消を目指すことだけではなく、自らが利用者の安心・安全を担うという災害に対する「意識」を持つことが大切であるということに気づいた。そのため、まずは擬似体験を通して実感する、被災地での実際の出来事をイメージするということをカリキュラム案とした。
また、作成したカリキュラム案を学科に提出したところ、今後カリキュラム編成の参考にするとのことであった。また、まずは日ごろから防災に対する意識を持つこと、避難訓練時に誘導される側ではなく将来誘導する側になることを考えて参加すること、地域で行なわれる防災訓練や震災時に被災地のボランティアなどに参加することなどに、在学中から主体的に取り組んでほしいとの提案を得た。

7.まとめ

以前から首都直下型地震が懸念されているなか、将来施設で働く際に私たちはどのような行動を起こせばよいのか不安になり今回、卒業研究のテーマとした。施設へのインタビューと養成校に提案するカリキュラム作成をすることを通して、震災に対する意識を高め、どのような対応が必要なのかをイメージを持つことが必要であると考えた。
「被災」はひとごとではなく、いつどこで自分が「被災者」になるかはわからない。また、高校までの避難訓練は誘導される側で震災時では放送によって指示されるのが当たり前だと思ってい たが、介護福祉士は、生活に寄り添う専門職として自ら状況を判断し行動していく力が必要である。
今後施設で働く中で災害が起きた際に、災害の知識や経験がないと状況把握やどう判断して行動したら良いのかわからなくなってしまうため、学生であるうちに地域の防災訓練などに参加し、働いた際に少しでも行動できるように取り組み活かしたい。
「巨大地震が起きたら、冷静沈着に行動する」とわかっていても実際には難しい。冷静沈着に行動するためには『知る・学ぶ・備える』の 3 点が大切だと思う。施設で働く際にはこの 3 点をふまえ、介護福祉士の視点から何が必要かを考え、周囲にも働きかけていく必要があると考えられる。

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