児童養護施設の子ども達がゲーム機を使ったネットトラブルに遭わないようにするには

年度 2016
学科 こども福祉科 (現:保育士科)

1.はじめに

私たちは児童養護施設の子ども達は一般家庭の子ども達に比べてゲーム機を使ったネットトラブルに遭うことが多いのではないかと考えた。施設へのアンケート調査では子ども一人ひとりに対してフィルタリングをかけていない事が多く、それによって子どもがトラブルに巻き込まれて問題になっていることが少なくないことが分かった。従って私たちは施設の子ども達にネットトラブルに関する知識を身につけ自力で解決する方法を知ってもらうことで、施設から自立してもトラブルに遭わないようになるのではないかと考えた。
また子ども達に講義という形で伝えても、イメージしづらいのではないかと考え、昔から子どもたちへの教育効果のあるものとして推奨されてきた、影絵を使用することとした。

2.現状把握

2013 年のインターネットでの一般家庭の保護者への調査では、子どもに持たせてあげたい機器として、パソコン(52%)、ゲーム(39%)、携帯電話(21%)が挙げられていたが、翌年の調査ではパソコン(30%)、ゲーム(18%)、携帯電話(10%)のように全ての項目で下がっている(図 1)。理由としてはインターネットによる言葉や画像を使った中傷メール、無関係な人巻き込む。匿名での無責任な書き込み・なりすまし等が多発したことが考えられている。
児童・生徒のインターネット利用状況調査報告書によると、インターネットに絡んでトラブルや嫌な経験をしたことがある子どもは小学生 5.6%、特別支援学校 7.1%、中学生 8.6%、高校生 10.5% となっている。
トラブルのうち「無料通話アプリなどのグループで仲間外れにされたり、勝手に退会させられたりした」ことは、他のトラブルに比べて、保護者に相談しない割合が高い。また、女子中学生がインターネット上で知り合った男らに連れ去られたという誘拐事件もある。
インターネットや施設への調査によると、一般家庭では過半数がフィルタリングを設定しているが、施設ではほとんど設定していないことが分かった。
また、実際に施設に行き、フィルタリングをかけているかを職員に聞いたところフィルタリングそのものを知らなかった。また、子どもが持ってきたゲーム機を調べたところフィルタリングはかかっていなかった。

仮説

児童養護施設の子ども達のゲーム機には、フィルタリングがかかっていないことが多く、トラブルに遭いやすいと考えられる。子ども達と影絵を演じたり、観たり、一緒にゲーム機を使って学ぶことで、トラブルに関して知識が身につき施設から自立しても、トラブルに遭わないようになるのではないか。

3.研究方法

〈目的〉
施設の子ども達がゲーム機を使ったネットトラブルに遭わないようするために、子ども達にトラブルに対する知識や正しい使い方などを身につけてもらう。
〈概要〉
(1) 子ども達と一緒に影絵を演じ観ることで、子ども達に何が安全で何が危険なのかを伝えていく。

(2) 一緒にゲームをすることで何が危険なのか、何が安全なのかを伝えていく。
(3) 一日のフィールドワークの終わりにテストまたはインタビューを行い子ども達が学んだ内容を振り返っていく。
〈期間〉
平成 28 年 8 月に小学生対象のアンケートを実施
平成 28 年 9 月 25 日(日)~年 11 月 13 日(日)影絵とゲーム機でのフィールドワーク実施

〈内容〉
1回 フィールドワークの内容の説明。検証テスト行う。
2回目 影絵の製作。どのようなトラブルかあるか話し合う。
3回目 影絵(問題編)を演じ、影絵を観る。その後インタビュー。
4、5回目 トラブルに対する解決案を考える。
6回目 影絵(解決編)を演じる。
7回目 影絵を観る。その後インタビュー。
8回目 振り返りを行い、検証テストを行う。
〈場所〉
さいたま市内児童養護施設 A

4.研究結果

中学 2 年生(Mちゃん)
最初のフィールドワークでは意欲的ではなかったが、2 回目以降は、「今日は何やるの?」などと言って意欲的に参加している姿を見ることが出来た。検証で行ったインタビューでは最初、ふまじめな答えがあったが、その後、「こわいね」など不安を表わす答えが増えた。テストでは、最初はやる気を出さなかったが、後半になってわからないことを学生に聞く姿を見ることが出来た。
フィールドワークでゲーム機を使った講義では、トラブルに対しての解決案を考える上で、やはりふまじめな答えがあったが、改めて質問をすると影絵を思い出しながら、しっかり自分の考えをまとめTくんとHくんに伝えていた。一部わからないこと、忘れてしまったことについては学生側から問題点をあげると、言葉にするのに時間はかかったが、しっかり理解しているように感じ取れた。

小学 5 年生(Tくん)
最初のフィールドワークでは誰よりも意欲的に参加をしていたが、影絵の製作時に「おれ、作らない」「人形を作るのがきらい」などと、影絵への参加は意欲的ではなかった。しかし影絵を実際に行っている時は「これ今何をやってるの?」と意欲的であったりと、場面によって、参加意欲にむらがあるように見受けられた。
影絵以外の振り返りを行っている場面でも、進んで参加をしている時もあるが、自分の世界に入りこんでしまうときもあった。

小学 4 年生(Hくん)
最初のフィールドワークからアンケートやテストに「え?これどういうこと?」「次何やるの」などといって意欲的に参加していた。
しかし、他の子が遊んでいる姿を見ると一緒に遊んでしまうこともあった。ただその後学生が声を掛けるとすぐに遊ぶのをやめフィールドワークに参加してくれた。
インタビューでは、最初は「そんなの無視」と言っていたが、もっと詳しく聞いてみると、ネット問題に対して恐怖心を感じており、「自分が3DS を使うときは注意が必要だね」などと言っていた。

5.考察

今回のフィールドワークの中で、どのようなトラブルがあるのかがわからない、何が起きてしまうのかがわからない、だから「こわい」や「気をつけよう」という言葉を多く聞くことが出来た。
最初子ども達の検証テストでは、ゲーム機を使ったネットの基本的なことはわかっているが、トラブルに遭わないようにするための知識が少ないことがわかった。最後の検証テストでは、知識が身についていることがわかった。今回、実施した影絵を演じたり、観たり、ゲーム機使って学ぶことでただ講義を聞くより、集中力が継続しやすいということが分かった。
これにより、将来ネットトラブルに遭わないようにすることができるのではないかと考えた。

6.まとめ

今回行ったゲーム機を使った講義と影絵は、数回であったが子ども達はネットトラブルに対する知識を身につけ、自力で解決できるというきっかけをつかむことが出来た。今後、影絵に限らず、子ども達が興味を持てるものを使って継続的に学ぶことができれば、ゲームに限らず、スマートフォンやパソコンなどについても、トラブルを避けることができるようになるのではないかと思う。
しかし、今回のフィールドワークでは準備に手間が取られてしまい、十分に時間が取れなかった。今後は子ども達にどのように効率よく教えられるかが課題である。また今回で学んだことを生かして支援者になってからも子ども達にネットトラブルの危険性を今回のフィールドワークを参考にしな がら伝えていければと思う。

参考・引用文献
平成 25 年度 児童・生徒のインターネット利用状況調査報告書http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/pickup/seisaku/seisaku_net/27houkokugaiyou.pdf
先生のための教育事典 EDUPEDIA
https://edupedia.jp/article/53233f92059b682d585b63b1

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