障がいのある児童が1日の生活を理解するには ~よりよい 1 日を送るために~

年度 2016
学科 こども福祉科 (現:保育士科)

1.はじめに

私たちが保育園・幼稚園の実習をしてきた中で、障がいのある児童(以後、障がい児と記載)の受け入れが難しい園や、何をするべきかを自分で判断することが難しい障がい児1人に対し保育士1 人が付き保育している園が見られた。また、何をするべきかを理解しやすい環境を整えることで子どもたち自身が自分で理解して判断し、自信を持って行動ができることで自己肯定力が育つと授業で知った。
そこで、障がい児と障がいのない児童(以後、健常児と記載)、双方が生活しやすくなり、自分で理解して判断し行動に移せる工夫があれば障がい児を受け入れる園が増え、さらに自己肯定力が育ち1日の生活がよりよいものになるのではないかと考えた。

2.現状把握

平成 27 年度の障害ゼミの卒業研究で、アンケート調査を行った保育園・幼稚園では「10 園中 4 園では障がい児を受け入れていない」という結果だった。
私たちは、実際に障がい児が1日の生活を理解しやすくするためにどのような工夫を行っているのかを児童発達支援センターで事前調査を行った。そこでは活動や生活の流れに環境の構造化の技法である視覚化を取り入れており、イラストや写真を使って目で見て解りやすいように掲示していた。実際に私たちが実習した保育園・幼稚園では、目で見て理解しやすいような掲示は少なく、文字や声かけでの促しが多いように感じられた。

3.仮説

人は、情報の約70%以上を視覚から得ている。そこで、目で見て解りやすいイラストや写真を使って伝えることで子どもは理解しやすくなり、自分の判断で行動できるようになることで自己肯定力が育ち、1日の生活がよりよいものになるのではないかと考えた。

4.研究方法

(1) 実施日・対象
10月31日 保育園 52 名(3歳児:24 名 / 4歳児:28 名)
11月24日 障がい児施設 4 名(小1:1名 / 小3:1名 / 小5:2名)

(2)研究内容
健常児と障がい児の双方に、「A.文字で伝える場合」と「B.写真と文字で伝える場合」のどちらが伝わりやすいかを検証した。

・AとBのカード(各5種類)を見せ、子どもたちの反応を見る。
・ゲーム感覚で行う。カードのサイズは紙芝居程度。
・ひらがなが苦手な子どもは、文字=図・マークとして認識する。

◎カードの種類
すわる / たつ / あいーん
てをたく / てをあげる

<方法> ① カードに書いてあることをするよう、口頭で伝える。
② カードを見せ、子どもの反応を見る。 このとき声かけはしない。
③ 子どもが理解できていない場合、そのことを確認し てから「すわるって書いてあるんだよ」と伝える。
※身振り・手振りで伝えない。
※「すわって」などの声かけはしない。

<方法>
① カードの写真の真似をするよう、口頭で伝える。
② カードを見せ、子どもの反応を見る。 このとき声かけはしない。
※身振り・手振りで伝えない。
※「すわって」「すわるって書いてあるよ」などの声かけはしない。

<実際に使ったもの>

5.結果

○健常児と障がい児とも「B.写真と文字で伝える場合」の方が効果的であることがわかった。
○障がい児施設では、4人の子どもがいたが、その中の1人の子はフィールドワーク前に興奮してしまい、遠くで見ていて参加をしなかった。

6.考察

健常児も障がい児も「A.文字で伝える場合」では、周りの反応を見てから行動する子どもが多かったことに対し、「B.写真と文字で伝える場合」では、写真を見て自らの判断で行動することができた。
「すわる」の場合、Aでは、各々が違った座り方をしていたが、Bでは写真通りに膝を抱え体育座りをしていた。このことから、単純に文字のみで「すわる」と伝えるより、写真を使う方がより細かく伝わり、ほぼ全員が同じ理解ができることがわかった。
フィールドワークの結果から、目で見て情報を得ることは具体的に伝わり、自分の判断で早く行動に移すことができる方法だと言える。

7.まとめ

今回の研究では、障がい児施設で実際に行っている工夫を保育園で健常児を対象に行っても効果があるということがわかった。このことから、生活する環境を構造化し、目で見て理解しやすくすることは障がい児、健常児双方の生活がよりよいものにできる工夫の一つだと考えられる。また、写真を使って理解しやすくすることで自分で判断し、自信を持って行動できるようになると、自己肯定力をさらに育むことができる。
しかし、そのような取り組みを保育園や幼稚園で行っているところは少なく、生活の一つ一つを視覚化することは難しい。そのため、写真を使う方法だけではなく、実際に保育者が手本を見せて伝える方法も効果的であると考える。
今回の障がい児施設でのフィールドワークでは、1人の子どもは遠くから見ているだけで参加は しなかった。そのことから、広い範囲で多くの子ども達に伝えるためにはどうしたら良いのかを考 える必要があると感じた。また、フィールドワークを行った障がい児施設の職員の方から「今回は 少人数で集中しやすい環境だったが、大人数になると集中力が散漫し、全体に伝えることは難しい。」
「その子どもに合った伝え方を考えることが大切。」というお話をして頂いた。一人一人の障がいの特性を理解し、環境に応じた伝え方の工夫が大切だと改めて感じた。

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