アルツハイマー型認知症の帰宅願望の出現時間とその要因 ~専業主婦と働いていた人~

年度 2015
学科 介護福祉士科

研究背景

実習に行ったときに、帰宅願望がみられる利用者がいた。そして、帰宅願望が出た利用者それぞれ出現時間帯が違っていた。そこで、認知症罹患者の帰宅願望はなぜ出現するのか、その出現理由は何なのか、良い対応法はないのかを知るために私たちは集い研究に取り組んでいった。

現状把握

今日、進行し続ける高齢社会で認知症罹患者はますます増加している。また、認知症が今の名称になったのも最近である。そんな中で介護職になる者として認知症罹患者の増加に伴い、適切な対応を将来の実践に繋げる為にも症状の理解を深めるとともに社会に認知症の正しい知識を発信す る必要がある。今回の研究では認知症の中で女性が罹り易いとされるアルツハイマー型認知症の帰宅願望にスポットを当てた。アルツハイマー型認知症罹患者を対象にした理由として今まで行ってきた実習先で、帰宅願望が出た利用者の方のほとんどが、女性でアルツハイマー型認知症罹患者であった事と数ある認知症の中でもアルツハイマー型認知症が他の認知症より比較的、罹患割合が高いことから今回の研究テーマとして取り上げた。
そこで私たちは、帰宅願望はいつ起こり易いのかと言う出現時間帯となぜ帰宅願望が起こるのかまた、生活暦(専業主婦・働いていた)によって出現内容が違う事を知ることで利用者の帰宅願望の出現だけを見るのではなく、利用者が訴えている本望に気づき利用者の自己実現に向けた個別ケアに近づくのではないかということを検証していった。

仮説

実習先等で私たちは帰宅願望の出現時間が利用者によって違う事を知った。そこで、今まで認知症高齢者について学んできた中で私たちはアルツハイマー型認知症罹患者の割合の多くが女性だ と言う事を知った。その知識をもとに、長年専業主婦をしていた利用者の方と長年勤めをしていた利用者の方とでは帰宅願望の出現時間帯はどのように違うのか、また出現要因は何なのか、そのときに職員はどのように対応しているのかと言う疑問が生じた。実際の施設現場で帰宅願望のある利用者で長年専業主婦をしてきた利用者の方と長年勤めをしてきた利用者の方の帰宅願望の出現理由や職員の対応を知ることが出来れば、私たちも帰宅願望のある利用者の方への対応が出来るのではないか、利用者の本望を読み取ることが出来るのではないかと言うことで研究を進めた。
実際にアルツハイマー型認知症罹患者の帰宅願望の出現時間帯と要因を知ることが出来れば、帰宅願望出現時に利用者に合わせた対応を根本から知ることが出来るのではないかと私たちは考えた。
そこで私たちは、対象を女性であること、長年専業主婦をしていた利用者の方と長年務めをしていた利用者に絞り研究を行った。長年専業主婦をしてきた利用者の方と長年務めをしていた利用者の方に研究のスポットを当てた理由として、長年専業主婦をしてきた利用者の方は、子ども関係の事がほとんどで、炊事・送迎(幼稚園)・遊びについての理由、長年勤めをしてきた利用者の方は、仕事関係の事がほとんどであり、通勤・退勤・出張に行くという理由が挙げられている。このことから、利用者一人ひとりの生活暦により帰宅願望の理由が違う事、よって帰宅願望の出現時間帯の違いが生じてくると考えた。また、利用者一人ひとりの帰宅願望の時代背景を分析していく事で利用者の本当の気持ちに寄り添った対応を知り、介護現場にこれから携わる者とし て、貢献出来るのではないかと考えた。

研究方法

アンケートでアルツハイマー型認知症罹患者の帰宅願望出現の現状や要因、対応法を調査した。
① 対象施設・対象利用者
特別養護老人ホーム H 施設
介護老人保健施設 K 施設
特別養護老人ホーム K 施設
特別養護老人ホーム S 施設
グループホーム M 施設

アルツハイマー型認知症・女性・専業主婦又は勤めをしてきた人
② 研究期間
平成27年 10月 19日~平成27年 11月16日

③ 研究手順
(ア) 研究対象施設に電話をし、目的や方法を説明して同意を得る。
(イ) 研究対象施設宛に学校から研究依頼書を送付する。
(ウ) 研究対象施設で働いている職員や対象利用者・家族に研究協力の依頼をする。
(エ) 職員・利用者・家族から研究協力を得られたら、介護主任に相談し、研究日時を決定する。
(オ) 利用者の帰宅願望の出現時間とその要因をアンケート調査し集計を行う
(カ) 調査の結果から帰宅願望のある利用者の職員の対応方法を知る。

④ アンケート内容
職員の情報把握
→勤務暦・年齢(年代別)・性別・認知症罹患者の帰宅願望出現の対応経験の有無

対象利用者の情報把握
生活暦(働いていた・専業主婦)
対象利用者の出現時間(6-10 時・10-14 時・14-17 時・17-22 時・22-翌 6 時)
対象利用者の出現内容→子ども関係(ご飯・送迎・遊び)
仕事関係(仕事に行く・家に帰る・出張に行く)私情 (買い物・旅行・散歩)
対象利用者への帰宅願望出現時の対応→コミュニケーション(子どもの話・仕事の 話)
作業・見守り・散歩・その他
対象利用者への対応後の効果→対象利用者の様子(記入)
症状の変化(減少した・変わらない・増えた)

⑤ 倫理的配慮
研究対象者が特定されないよう、施設名称・利用者氏名はイニシャルにする。
研究協力者に研究目的を説明し同意を得る。
研究結果や収集したデータの取り扱いは、外部に漏れないように配慮し管理を行う。

研究結果

今回の卒業研究ではアンケートにより結果を集計した。5 施設、計 80 枚のアンケートが集まった。アンケートは約一週間実施して頂いた。時間帯から見ると長年専業主婦をしてきた利用者の方は 17~22 時の出現が最も多く見られ、出現内容は子どもにご飯を作るが理由が一番多いという結果となった。(図 1 参照)
一方、長年勤めをしてきた利用者の方は 17~22 時の出現が最も多く見られ、出現内容は仕事から帰る、子どもの送迎に行くが理由となった。(図 2 参照)この事から出現時間は長年勤めをしてきた利用者の方は日中から夜に帰宅願望が出現していて、長年専業主婦をしていた利用者の方は朝と夜に帰宅願望が出現している。
また、対象利用者の帰宅願望の出現の対応方法として次の事が挙げられた。まず、長年専業主婦をしてきた利用者の方には何らかの作業をして頂くという対応が一番多かった。一方、長年勤めをしてきた利用者の方にも長年主婦をしてきた人と同様の対応方法が調査結果から汲み取る事が出来た。

考察

今回、私たちがアルツハイマー型認知症罹患者の帰宅願望の出現時間と要因を調査した。そこから女性・長年専業主婦をしてきた利用者の方と長年勤めをしてきた利用者の方にスポットを当て研究を進めた。出現時間は長年専業主婦をしていた利用者の方は朝と夜、長年勤めをしていた利用者の方は日中から夜にかけて帰宅願望が出現している。この事から一日の生活サイクルを考えると食事の時間や育児、仕事の通勤時間帯に多いことが考えられる。また、長年専業主婦をしていた利用者の方、勤めをしてきた利用者の方それぞれ、今現在の年齢ではなく、一番自分が輝いていた時の年齢に戻っている方が多かった。結果、対象利用者それぞれの時代背景に合わせ否定や一方的な対応をする事なく、当たり前の事だが、対象利用者の帰宅願望内容に合わせた対応が大切だと考えられる。当たり前のことを当たり前に行えることが私たちは大切なことだと考える。
さらに、その出現時間帯を知る事により対象利用者、個々の生活暦を再認識する事や帰宅願望の出現を軽減できる環境を整える事に繋がると考えられる。また、対応方法も介護者側、対象利用者共に違いがあった。出現内容はほぼ同じ内容を言葉にされているが、利用者の本望に着目できれば、帰宅願望の減少に繋がっている。はたまた着目不足の場合は帰宅願望を増加させることも考えられる。
この事から、帰宅願望の出現の原因つまり利用者個々の本望を介護者が理解し、ただ一人の介護者の理解だけでなく、他の介護者への共有も必要である。

まとめ

私たちは帰宅願望の出現の実態を調査するにあたり、アルツハイマー型認知症の女性と調査内容を絞ってきたが、もし、長期の研究時間を設けられたなら、性別、種類別による(脳血管性型、レビー小体型、ピック型等)調査の視点を広げることも出来る。また今日、女性の社会進出の時代背景から今回の研究を例に挙げると専業主婦のみをしてきたという人は減少していくと考えられ、また労働の勤務形態も多様化していくと共に男性が家事をするなど家族形態の変化から帰宅願望の出現内容も幅広いものになる事が考えられる。このことから、利用者個々に合わせた対応をするためにもこの研究は続けていくことが必要である。
そして、今回の研究から介護現場で実践していき、利用者に寄り添った支援をしていきたい。

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