介護報酬における給与歩合制の導入に関する検証 ~職員アンケートからみえてきた導入実現の可能性を探る~

年度 2015
学科 介護福祉士科

1. はじめに

現在の介護現場では介護職員からさまざまな不満や問題を耳にすることが多い。その中でも特によく聞かれるのが介護職の離職率の高さ、またそれによる介護職の人材不足、介護の仕事内容に対し賃金の安さである。
これらの問題を現行の介護保険制度内で解決する手立てはないだろうか、解決の糸口になる考え方はないだろうかと考えたのがこの研究の始まりである。
介護施設の多くは介護保険料などからの収入で経営を賄っている。この介護保険料から人件費や給食費、オムツなどの消耗品や減価償却費などを経費としてやりくりし、わずかばかりのお金が経営者の手元に残る。この残ったお金から、介護職の給与を増額すれば介護の仕事内容に対し賃金が安いという問題の解決に繋がるのではと考えた。
しかしながら、単純に増額するだけでは、介護職の離職率が高さやそれによる介護職の人材不足という問題の解決には導くことは難しいだろう。なぜなら介護職の離職理由の上位に、働きがいがない、人間関係がうまくいかない、施設との方針の違いというものがある。施設との方針の違いというのは我々の手の及ぶところではないと思うが、働きがいがない、人間関係がうまくいかない、という理由に対する変化の呼び水として我々は「完全歩合制」の導入を提案する。
「完全歩合制」というのは、労働を行い、成果を挙げた分のみが給料に反映されるという資本主義的な考え方である。この「完全歩合制」を介護現場に導入したらこうなるであろうという一例を挙げ、その一日の流れを参考にしてアンケートに回答していただいた。

2. 研究方法

<実施期間と場所>
2015年10月~11月
さいたま市内の特別養護老人ホーム、デイサービス、埼玉福祉専門学校
<対象者>
施設に勤める職員 32 名、福祉の専門学校の生徒 11 名、教員 3 名
<実施内容>以下の例に関してアンケートに回答していただいた

3. 研究結果

作成した歩合制の例を検討していただいた結果、歩合制を導入することのメリットとして最も多かった回答はBの実績のない介護福祉士はスキル up するための努力をするが 21 名、次いでCのやる気次第で給与が増減するが 20 名、Aの実績のある介護福祉士には雇用の門戸が拡大するが 14 名、Dの体調や身体状態で仕事内容を選びやすいが 12 名。Eの利用者一人当たり○○円と具体的な設定が見えるので目標が立てやすいが 8 名。Fの施設と契約交渉しやすいが 6 名。Gのその他が 6 名の順であった。
Gのその他の理由では、「基本給の水準をあげる策としては使えない」「業務の達成度がはっきりとわかる」「評価基準の明確化が必要」「普通に働くだけで賃金 up しそう」「例としての日給 10,700 円程度では人材不足の解消には繋がらない」「賃金だけでなく人間関係の中で繋がりを求められる仕事内容」「最低基本給を保障した上での歩合制」という理由が挙げられた。
一方問題点としては、「介護の仕事は人と接する仕事のため営業のような歩合制は難しいのではないか」「仕事量を測定できても質の評価はどうするのか」「個別での仕事量のカウントができないのではないか」といったカウントの難しさの指摘や「賃金のベースの低さより昇給額の低さが問題なのではないか」「社会福祉法人なので歩合制は難しいと思う」といった現行のものからの移行に対する難しさを指摘する意見、「職場の雰囲気や人間関係も大切になるのではないか」「歩合制により職員すべてが利用者に平等に接することができないのではないか」「施設利用者全員を全スタッフで介護するのが介護福祉士の仕事ではないか」「信頼関係を得られることがお金よりも大切なことなのではないか」という介護職としての倫理観からの意見などが挙げられた。

4. 考 察

メリットとして挙げられた「実績のある介護福祉士には雇用の門戸が拡大する」、「実績のない介護福祉士はスキル up するための努力をする」に関するものとしてスキル向上が賃金の向上に繋がるのではという期待を込められた意見もあり、介護職のやる気向上に直結するのではないかと考えられる。
また「やる気次第で給与が増減する」については多くの方に賛同が得られた。自身の頑張りが賃金に直結しやすいという歩合制の特色は多くの方に魅力として伝わり、これも介護職のやる気向上に直結するのではないかと考えられる。
しかし「体調や身体状態で仕事内容を選びやすい」という項目では意見が分かれた。その日の体 調面を考慮できるのがよいといった意見と、交代で仕事をしてくれる人材がいなければ意味がない、人材に余裕のある施設ならまだしも自分の施設では無理だと思うという反対の意見があった。これ は確かに人材確保ありきの話であると思われる。
「利用者一人当たり○○円と具体的な設定が見えるので目標が立てやすい」では、利用者をお金として見るのは介護職としてのモラルに反するといった厳しい意見も多くあり、あまり賛同を得られなかった。しかし少数ではあるが、個人目標の具体性が明確になるといった意見もあり、人によっては介護職のやる気向上に直結するのではないかと考えられる。
「施設と契約交渉しやすい」については今後、転職を視野に入れている方からの意見があり、介護職の人材不足の解消に繋がっていくのではと考えられる。

5. 今後の課題

「体調や身体状態で仕事内容を選びやすい」という項目で多く聞かれた意見が、人材さえ確保できれば素晴らしい提案だというものだった。さまざまな問題に着眼するのもいいが、まずは介護職の人材確保ありきだということを念頭に、離職率や仕事内容に対し賃金が安いという問題に対して考えていかなければならない。
また今回の研究は完全歩合制で考えていたが、完全歩合制だと給与面での格差が拡がってしまう、利用者に直接関わっていないけれど利用者の為の時間(サービス担当者会議の出席など)に賃金が 発生しないという指摘がみられた。この件に関しては、固定給+歩合制など別の歩合制を用いた切 り口から研究を続ける必要があると捉えている。

6. まとめ

今回の研究結果から介護の世界に歩合制を導入することについては多くの課題があり、まだ実現には及ばないことが明らかとなった。今後は今回示されたメリットや問題点を精査し、実現可能な案を発信していきたい。

7. 引用文献

WAMNET http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/top/

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