入浴の時間を楽しみにしてもらうために必要なアプローチ支援 ~アルツハイマー型認知症の意思疎通ができる方~

年度 2015
学科 介護福祉士科

1.はじめに

私たちは今まで様々な高齢者福祉施設に実習に訪れた。施設実習では多くの認知症の利用者と関わる機会があった。認知症の原因疾患として主にアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の四つの疾患があげられる。その中でも、アルツハイマー型認知症は比較的に女性に発症しやすいといわれており、また、施設実習に行った際、男性よりも女性のほうが多かった。私たちは施設実習で入浴の見学をさせていただいたが、利用者の表情は、呆然とされているようで、入浴自体を楽しまれているようには見受けられなかった。そこで、私たちは入浴中に五感(聴覚・視覚・嗅覚)等に働きかけ、楽しんでいただけるようなリラクゼーションはないかと思い調べると、リラクゼーションにはマッサージ、音楽、アロマといったものがあり、その中から音楽を参考にして、利用者に実施することで普段との入浴に変化が見られるのではないかと考え研究を進めた。

2.現状把握

【職員アンケート】
対 象 者:実施させていただいた施設に勤めている職員 計73名
実施期間:平成27年10月~11月20日
実施内容:実施させていただいた施設に勤めている職員 計73名を対象として施設の入浴状況 についてアンケートを実施する。
『アンケートの質問項目』
貴施設で入浴中に、利用者が楽しみになるようなことを行っていますか。
*はい・いいえで回答してもらい、どちらの場合も選択欄から当てはまる状況のものを選択してもらう。(回答複数可)
利用者に対して、何かしてあげたいことはありますか。
*はい・いいえで回答してもらい、はいの場合のみ選択欄から当てはまるものを選択してもらう。
(回答複数可)
『アンケート結果』
貴施設で入浴中に、利用者が楽しみになるようなことを行っていますか。
〈はい〉と答えた方の回答 5 1 名 〈いいえ〉と答えた方の回答 2 2 名

〈はい〉と答えた方のその他の回答
・季節の湯(ゆず、かりん、しょうぶ)
・利用者の入りたい温度

〈いいえ〉と答えた方のその他の回答
・入浴は安全第一のため行う心の余裕がない
・職員が気に欠けていない
・何が楽しみかはその人によって違うため
・安全問題

利用者に対して、何かしてあげたいことはありますか。 〈はい〉と答えた方の回答 63名 〈いいえ〉と答えた方 11名

〈はい〉と答えた方のその他の回答
・銭湯のような壁面の絵 ・DVD 鑑賞
・好きな時間に入浴してほしい ・利用者が訴えた入浴方法
・入居者個々に合わせたサービスを展開したい
・職員とマンツーマンでゆっくりと会話を持ちたい

3.仮説

入浴中に音楽を用いることによって普段との入浴に対するイメージの変化があるのではないか。

4.研究方法

<研 究 対 象> 特別養護老人ホームに入所されているアルツハイマー型認知症の方(7名)
<実 施 期 間> 平成27年10月~11月20日 一施設1回、入浴時に実施
<実 施 場 所> 特別養護老人ホーム 浴室
<実 施 手 順>
1.研究対象施設に行き、目的や方法を説明して同意を得る。
2.研究対象施設宛に学校から研究依頼書を送付する。
3.各施設の職員に研究協力の依頼をする。
4.職員の方から研究協力の同意を得られたら、各施設に行き実施する。
5.入浴中に研究対象者の方に対して音楽をかける。
※実施時間は音楽5分とする。
※音楽は研究対象者が浴槽に入ってから行う。
※曲はモーツァルト「2台のピアノのためのソナタニ長調 第1章」
※5分たたずとも研究対象者が浴槽から出た時点で研究は終了する。
6.実施中、利用者の様子を観察する。(発言、動き、表情)
7.研究対象者の方にアンケート協力をしていただく。
<アンケート>
『利用者』
・入浴中に鼻歌を歌おうという気持ちをどれぐらい感じますか。(楽しさ)
・入浴中、浴槽から「早く出たい」と思われますか。(楽しさ)
・入浴中にもっとゆっくりお風呂に浸かりたいと思われますか。(楽しさ)
・入浴中に、身体はどれぐらいリラックスできていますか。(リラックス)
・入浴中に落ち着かないと思われますか。(リラックス)
・入浴はどの程度満足していますか。(満足度)
※楽しさ、リラックス、満足度について普段の入浴でこの3つの点に対してどのようなイメージを持っているのかを知るための質問です。
※音楽実施後も同じ質問に答えていただきます。
※回答は4択で、満足度だけ5段階評価です。カテゴリー(楽しさ、リラックス、満足度)ごとに合計の点数を足し、それぞれの利用者の点数が出たら、全体の平均点を出します。(表1

<倫理的配慮>
①研究対象者が特定されないように施設名称・参加者氏名は匿名とする。
②研究対象者に研究目的を説明し、研究への参加は本人の意思とする。
③研究結果や収集したデータの取り扱いは、外部に漏れないように配慮する。

5.研究結果

表1)『実施およびアンケート結果』
※入浴前=普段の入浴の状況 入浴後=音楽実施後の状況

アンケート結果から、楽しさ、リラックスに対するイメージは入浴前とくらべて入浴後のほうがいいイメージを持っていただけた。しかし、満足度に関しては入浴前とくらべると入浴後のほうが満足されていないという結果になった。
表2)『観察結果』

『職員の方からの意見』
・曲調がもっとゆったりしたほうが落ち着くのではないか。
・人それぞれの好みの曲に合わせたほうがいいと思う。
・曲の時間が長い。
・静かに入りたい利用者もいる。
・昔の人はお風呂で音楽を聴くという習慣がないと思う。
・実施回数をもう少し多くしたほうがいい。
・ヒーリング音楽やオルゴールのほうがいいのではないか。
・いつもと違う雰囲気を味わえたと思う。
・普段の様子も見たほうがいいと思う。

6.考察

楽しさへのイメージが上がった理由としては5名の利用者は音楽をかけても「音楽がよくわからな い」、「曲を知らない」とおっしゃっており、イメージを下げるまでには至らなかったが、イメージを上げるという影響は与えることができなった。しかし、2名の利用者が音楽に興味を示してくれており、「音楽がないよりあるほうがいい」、「音楽なら何でもいい」、「もう一回かけてほしい」とおっしゃってくれたのもあり平均値が上がったのではないかと考えた。同様にイメージが上がったリラックスの理由としては「いい湯だね」、「温かくて気持ちいよ」といった浴槽のお湯に浸かっていることに対する発言が多かったことから音楽ではなくお湯に対してリラックスを感じたのではないかと考えた。また、満足度が上がらなかった理由として全体を通して、クラシックの音楽を知らないため、流れている曲に興味を示してもらえず、1名の利用者からには「分からないから消してくれ」と言われてしまったこともあり、かえって耳障りになってしまったのではないかと考えた。

7.まとめ

今回の研究から音楽を使用した入浴法を行い、利用者の普段との入浴に対するイメージの変化が見られるのではないか考え行ったが、イメージの変化には個人差があった。しかし、人それぞれの好みに合った音楽を使用することで、楽しさやリラックス、満足感といったことにつながるということが分かった。
今後は対象者の好みに合った音楽を見つけ出し、今回以上の効果を期待するとともに、今回実施した 以外の入浴法を見つけ出し、少しでも入浴という時間を楽しんでいただけるよう研究を行っていきたい。

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