介護人材確保に関する研究

年度 2015
学科 介護福祉士科

1.はじめに

現在日本の高齢化率は 26%となり、高齢化の進行に比例するように介護職は年々需要を高めている。しかし、全国において人材不足が目立っている。実際に実習やワークを通して、高齢者施設において人手が足りていないと感じていることがあった。2013 年に介護事業所を対象に行われたアンケート(株式会社ニッソーネット、2013)でも、事業所全体の70%が「介護職員が不足している」と回答した。その原因として「採用しても人数が集まらない」ことが最も多く挙げられている。人材確保においては離職率ばかりが問題として取り上げられるが、「介護職に就きたい」と考える人自体が少ないのである。2010 年に行われた高校生の介護に対する意識調査についてのアンケート(森ら、2010)では、介護職に需要があることを知りながら、仕事として介護を選択する人は非常に少ないことが示された。また、2011 年に高校生を対象に行った希望する職業ランキング(株式会社日本ドリコム、2011)では介護職はランキ ング外であった。上位 5 位は全職業における平均年収を上回る職種が目立ったが、介護職と共に低賃金であり、かつ対人職という共通点を持つ保育士が 2 位にランクインしていた。介護職と保育士の人気の差はどこから生まれるのだろうか。この差を明らかにすることによって介護職の人材確保に繋がる手がかりが得られると思われる。

2.目的

[調査Ⅰ]
5 年前の高校生と現在の高校生との介護に対する意識を調査・比較し、意識変化があるか否かを検討した上で、介護職に人が集まらない理由を明らかにする。
[調査Ⅱ]
介護と保育を比較することによって介護業界が今後人材を確保する為に有効なアプローチの方法を検討する。

3.方法

[調査Ⅰ] 先行研究(森ら,2010)に用いられていたアンケートと同様のものを実施した。
1) 対 象 者 :高校生(工業科全学年・普通科 2 年生)計 934 名
2)実施期間:2015 年 9 月上旬
3)実施場所:埼玉県立高等学校 2 校の教室内
4)手 続 き :①介護意識に関するアンケート実施
②アンケート結果を、5 年前の結果と比較
[調査Ⅱ]
介護を学ぶ専門学生と保育を学ぶ専門学生に職業選択に関するアンケートを実施した。
1) 対 象 者 :専門学校 2 校で介護または保育を学ぶ学生 計 611 名
2)実施期間:2015 年 10 月上旬から 10 月下旬
3)実施場所:専門学校 2 校の教室内
4)手 続 き :進路を選択した理由に関するアンケートを作成し実施。介護と保育の領域による違いを比較
4.研究結果

4.研究結果

[調査Ⅰ]高校生の介護に対する意識調査の比較

「介護は将来にわたり重要な分野だと思いますか」という質問に対して「はい」と答えた人は全体の 94%となり、5 年前と大きな変化は見られず、重要だと考えている人が多かった(図1)。さらに「あなたは介護に関する情報を、主としてどこから得ていますか」という質問に対しては「テレビ報道」が 78%で 5 年前と同じく最多であり、一方で「学校の先生から」は 9%で、5 年前と比べ26%減少した(図2)。また、「高校入学後に福祉施設でのボランティア活動を行なったことがありますか」という質問に対して「はい」と答えた人は全体の 4%となり、5 年前と大きな変化は見られず、ボランティア活動を行なっている人が少ないことがわかる(図 3)。次いで、「あなたは将来、介護の仕事に就きたいと思いますか」という質問に対して「はい」と答えた人の割合は全体の 5% で、5 年前と大きな変化は見られず、介護の仕事に就きたいと思っている人が依然として少ないことがわかる(図 4)。

[調査Ⅱ]介護と保育の職業選択に関する比較

介護福祉士を目指す専門学生においては「高校生」の時と答えた人が 44%と最多となった。また、年齢が下がるにつれて回答比率も下がっており、「保育園児・幼稚園児」時点では 2%であった。一方保育士を目指す専門学生は「保育園児・幼稚園児」と答えた人が 11%で、介護と比べると 5 倍以上の値となった。また、保育を目指したのが中学時までと答えた人は全体のおよそ半数となり、介護を目指す学生よりも早い時期から将来の仕事として意識し始めている傾向が見られた(図 5-1,2)。

2) 職業選択の動機

介護を学ぶ学生は「自分が幼少期に、介護福祉士と関わったから」と答えた人は全体の 3%に留まった。一方、保育を学ぶ学生は「自分が幼少期に、保育園・幼稚園で担任の先生を見ていたから」と答えた人が最多で 26%となった。また介護では「祖父母と同居している、または身近に高齢者(障害者)がいたから」と答えた人は 35%、保育では「弟・妹や近所の小さい子など、子どもと関わる機会があったから」と答えた人は 33%であった(図 6-1,2)。

5.考察

[調査Ⅰ] 高校生の介護に対する意識調査の比較
5 年前の結果と比較をしてみると、高校生の介護に対する意識の変化はほとんど見られなかった。すなわち、介護という分野が重要であることを理解しているが、介護を仕事として選択する人は依然として少ない。その理由として、介護を実際に経験していないことが挙げられる。具体的には、高校生のときにボランティアで福祉施設に行き、介護を経験したことがある人は全体の 4%しかいないことが分かる。また 5 年前と比べ学校の先生を介して介護の情報を得ることが減少している。つまり教育の場で介護を取り上げられず、知識や経験として学ぶ機会が少ない。高校生達は介護をテレビ報道などのぼんやりとしたイメージでしか捉えられず実体験がない為に、自分が働く姿を想像しにくいと考えられる。

[調査Ⅱ] 介護と保育の職業選択に関する比較
介護と保育を比較してみると、幼少期の関わりの有無が反映される可能性が示された。幼少期に保育士とは担任の先生として日常生活の中で関わったという経験があり、憧れの存在として強い印象を与えたのではないだろうか。一方介護福祉士とは幼少期に関わる機会がほとんどない。祖父母は要介護状態となる年齢に達しておらず、実際に見ていたとしても、自分が直接関わっていたわけではない為、保育士との関わりで得られる経験よりも印象の薄いものとなってしまう。介護、保育共に職業選択する際の動機として「経験」が重要と考えられる。保育では小さい頃に保育士に憧れた経験が影響しているのに対して、介護では職業選択を考える時期までにそのような経験をする機会が少ない。この経験の差が介護福祉士と保育士の人気の差なのではないか。

6.まとめ

介護現場の人材不足を解消するのに有効な方法を探る為に、高校生の介護に対する意識を 5 年前と比較し、さらに介護と保育の職業選択の比較を行なった。この 2 つの調査から職業選択をする際に自らの経験の重要性が示唆された。介護職の人材を確保する為には幼少期から高齢者と関わる機会を多く設け、介護現場のボランティア体験ができるようにしていく必要があると考えられる。

【引用・参考文献】
株式会社ニッソーネット 2013 442 事業所が回答『介護人材の採用と活用に関する調査』年収ラボ http://nensyu-labo.com/
森正康 清田美鈴 佐藤晴美 杉本詠二 長谷川美音子 水野喜代 山﨑正幸 高校生の介護に関する意識の現状と課題 愛媛県下の事例を中心として 松山東雲短期大学研究論集. vol.41, no., p.9-18 2011
株式会社日本ドリコム 2012 ドリームランキング~高校生の希望する職業ランキング~

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