高齢者施設における人形を使用した活動による利用者の認知機能への効果

年度 2015
学科 介護福祉士科

1.はじめに

超高齢社会に入った日本の介護現状として、特に特別養護老人ホーム等の施設内で生活する高齢者は、施設内での活動が中心となるため、心身面への刺激が減少する傾向にあると考えられる。このような環境の中、活動性を高め、QOLの向上を図る手段の一つとしてドールセラピーをはじめとする人形を使用した活動がある。

2.現状把握

これまでに、高齢者を対象として人形を使用した活動では、軽度認知症の高齢男女 3 名を対象とし、手作り日本人形を1ヶ月間使用し健康度の変容を見る(浅井ら,2013)、施設入所中の認知症の高齢者夫婦を対象として一年間特徴の異なる人形を使用し妻の攻撃的言動の変化の有無を見る(畑野ら,2011)、そして施設入所中の高齢女性5名に対して手作りロボット人形を使用してもらい抑うつ度の変化の有無を見る(加納ら,2011)等の研究が行われ、それぞれに良好な改善がみられている。
このように、介護現場において人形を用いた介入の効果が明らかとなっているが、人形との関わりによる認知機能の変化に着目した先行研究は見当たらない。

3.目的

人形を使用した活動が、施設入所高齢者の認知機能に与える効果について明らかにする。

4.仮説

人形と関わることで、記憶や思考、表出などの認知機能が向上し、効果的な行動変容につながる。

5.研究方法

(1)対象者
人形を認識することができ、且つ日常会話が可能な施設入所高齢者3名を対象とした。
A 様:
99歳 女性 要介護2 既往歴(高血圧症・難聴・不眠症など) 移動や食事、排泄や更衣は全て自立。入浴は一部介助で対応。
K 様:
78歳 女性 要介護4 既往歴(アルツハイマー型認知症・統合失調症など) 移動や食事は見守り、排泄や更衣は全介助で対応。
F 様:
101歳 女性 要介護4 既往歴(高血圧や心疾患など) 食事は自立、移動は見守り、排泄や更衣は全介助で対応。
(2)使用した人形

(3)実施期間
平成27年9月16日~同10月14日の一ヶ月間
(4)実施場所
埼玉県内の特別養護老人ホーム内の対象利用者各居室および共用フロア
(5)手続き
① 対象利用者3名に、用意した人形の中から好きな人形を1体ずつ選んでいただき、一ヶ月間自由に触れ合っていただく。
② 対象利用者の日常観察は、実施施設職員である研究実施者の1名が実施する。その他は毎週水曜日と土曜日に施設を訪問し、居室内で同様の教示で介入を行う。
③ 介入初日と最終日に長谷川式簡易知能評価スケールを採取する。
④ 全介入終了後、実施施設職員に対して、本研究のアンケートを実施する。
(6)倫理的配慮
① 究対象者が特定されないように施設名称・参加者名は匿名とした。
② 究対象者に目的を説明し、研究への参加は本人の意思によるものとした。
③ 研究結果や集積したデータの取り扱いは、外部に漏れないように配慮した。

6.研究結果

表1)A様の行動記録

表2)K様の行動記録

なお、F様は、夜間に「人形が怖い」等の訴えがあったため、研究4日目に中止した。

7.考察

施設入所高齢者に対して人形を用いた関わりを1ヶ月間実施した結果、認知機能の向上がみられた。
先行研究において、人形は、高齢者自身が感情を表出したり、潜在していた能力を発揮することができる“気持ちの移行対象”であることが示唆されている(畑野ら,2011)。今回の結果は、このような人形の効果が対象者の普段表出しにくかった感情を解放し、「人形のために元気でいたい」「人形を守りたい」などの発言につながり、このような変化が認知機能の活性化をもたらした可能性が推察される。
さらに、A 様・K 様ともに子育て経験を持つことが、人形に対する愛着の気持ちの芽生えを生じさせたのではないだろうか。その愛着の気持ちが、名前を考えたり、名前を想起しようとしたり、声を積極的に聞こうとするなど認知機能に深く関わる行動に結びつき、結果として認知機能が活性化され、長谷川式簡易知能評価スケールの点数が向上したと考えられる。

8.まとめ

一般的に、個人差が大きく加齢や老化を要因として低下する機能といわれる認知機能であるが、人形を見たり触れたりすることは、人形が好きな人にとっては認知機能の向上を示し行動変容にも効果が期待できることがわかった。今後の課題として、今回は少人数で日常会話が可能な利用者に対しての実施となったが、失語症の高齢者や寝たきりの高齢者に対する人形を利用した活動も検証していく必要がある。

9.参考文献

○東京福祉大学・大学院紀要 第 2 巻 第 1 号
「手作り日本人形」の導入による施設入所中の軽度認知症を有する高齢女性の健康度の改善(2011.08)
○東京福祉大学・大学院紀要 第 4 巻 第 1 号
軽度認知症を有する男性高齢者における「手作り日本人形」の使用による健康度の改善事例―高齢女性との比較検討―(2013.10)
○滋賀県立大学 人間看護学部 人間看護学研究 9 号
認知症高齢者の攻撃性に対する赤ちゃん人形療法の効果(2011.03)
○The 25th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence
Babyloid と高齢者の共生から見えてきたもの(2011)

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