高齢者の食事の雰囲気をより向上させる職員の服装に関する研究 ~介護者の服装と高齢者の食欲との関係性に焦点を当てて~

年度 2015
学科 介護福祉士科

1はじめに

食事は、高齢者の健康の維持に欠かせない。食事において食欲は重要なことである。高齢者は食欲が低下していく傾向があり、その原因には身体機能の変化・5感の低下(味覚・視覚など)・気分・雰囲気・運動不足などがあげられる。その中でも雰囲気(食事の環境)に注目してみた。

2仮説

これまでに私たちが実習に行かせていただいた際、食事の場面で介護者は食事用のエプロンを使い食事の援助を行っていたが、現在の高齢者にとって食事の雰囲気があまり出ていないと感じた。
食事時に介護者の服装が変わることで食事の雰囲気が良くなり、気分が上がれば食欲も上がるのではないかと感じた。
より雰囲気を良くするためには家庭的な雰囲気を作ることが大切だと考え、エプロンよりも昔からなじみのある割烹着を着ることで、家庭的な雰囲気を感じていただけるのではないかと思い検証することにした。

以上のことから食事時により家庭的雰囲気を出せる割烹着を介護者が着ることで、高齢者の食欲が上がるのではないかと考えた。

3研究方法

<対象者>
特別養護老人ホーム M施設 2名(A様・B様) 介護老人保健施設 F施設 2名(C様・D様)
食事摂取量が少なく、意思疎通ができる方

<実施機関>
平成27年10月12日~10月30日までの中で実施
1施設3日間 夕食時(月・金)

<実施手順>
① 対象者の方々の普段・実施中の様子についてアンケート
② 夕食時に割烹着を着用(準備の段階から)

アンケート内容:対象者の方の普段と実施中の食事摂取量・時間・表情・会話量

① 実施前、中インタビュー
② 食事風景の観察

◎インタビューの内容
実施前:食事の雰囲気をよくするためには何が大切か。施設での食事に家庭的な雰囲気を望むか。職員の服装から家庭的な雰囲気を感じるか。
実施中:普段との食事中の気分・食欲の違い。割烹着を着用している職員を見てどう感じたか。割烹着から家庭的な雰囲気を感じたか。

<倫理的配慮>
・研究対象者の方が特定されないように施設名称、利用者氏名は匿名にする。
・研究対象者の方に研究目的・内容を説明し、同意を得る。
・研究結果や収集したデータの取り扱いは、外部に漏れないように配慮する。

4研究結果

<特別養護老人ホーム>
A 様(77歳・女性・自力摂取・常食・1/3)
実施中、3回とも穏やかであった。割烹着については「私たちみたいな年だと、ちょうど自分の母親を思いだすわね」、それを着た職員については「なんだか新鮮」とおっしゃっていた。自ら話す回数も実施を重ねるにつれて増えたが、社交的な性格に加え普段はいない学生がいたため、気を遣っていた可能性も考えられる。
摂取量は2回目では元の数値に戻ってしまったが、3日目では主食以外は全量摂取であった。摂取時間は1回目以降5分ほど長くなったが、摂取量が増えたためだと思われる。
~平均まとめ~↓
〈職員アンケート〉
・時間…20~25 分、表情…比較的明るい、自ら発語…2.3 回、声かけへの返答…毎回、家庭的な雰囲気…まあ感じた
〈利用者インタビュー〉
・食欲…比較的ある、普段との違い…ほぼ変わらない、割烹着の印象…母を思い出す、家庭的な雰囲気…感じた→その理由…若い頃や母を思い出す

B 様(94歳・女性・自力摂取・常食・2/3)
普段はあまり明るい表情が見られないようであったが、実施中には時折明るい表情が見られた。自ら話すことはほとんどないと伺っていたが、3回目では自ら話してくださった。声掛けに対してのお返事も3日目では毎回返してくださるようになった。
摂取量は普段約6割だが、2回目以外は摂取量が上がった結果となった。3回目は全量摂取であった。ただ、摂取時間が普段30分程度あるのに対して、2回目以降20分以内となっていた。近くに学生がいたことで焦らせてしまったのかもしれないと考えた。
〈職員アンケート〉
・時間…20~30 分、表情…明るいが時折暗い、自ら発語…ほぼ無い、声かけへの返答…時々、家庭的な雰囲気…まあ感じた
〈利用者インタビュー〉
・食欲…ある、普段との違い…ある、割烹着の印象…食事らしい→その理由…昔を思い出す

<介護老人保健施設>
C 様(94歳・女性・自力摂取・常食・2/3)
割烹着に関しては「昔着ていたから懐かしい」とおっしゃっていた。また、今後も着て欲しいと思うか伺うと「また着て欲しい」というお返事をいただいた。
対象者4名の中では食事摂取量がやや多く、様子も安定していて全体的にあまり変化が見られなかった。しかし、3日目は普段・実施の中で 1 番摂取量が多い結果となった。
〈職員アンケート〉
・時間…20 分以内、表情…明るい、自ら発語…多い、声かけへの返答…毎回、家庭的な雰囲気…まあ感じた
〈利用者インタビュー〉
・食欲…あまり無い、普段との違い…ほぼ変わらない、割烹着の印象…清潔感がある、家庭的な雰囲気…感じた→その理由…懐かしい感じ

D 様(93歳・女性・自力摂取・刻み食・2/3)*声掛けは必要
食事中の様子については、落ち着いていて特に変化は見られなかった。
割烹着については「清潔感がある」とおっしゃっていた。エプロンと割烹着ではどちらがよかったか伺った際は「どちらでもいいがエプロンよりは割烹着のほうがいい」と答えてくださった。
食事摂取量は普段は6割であることが多いようだが2回目は大幅に下がってしまった。摂取時間も普段に比べて短くなっていた。実施を行ったことでストレスを与えてしまったのかもしれないと考えた。

〈職員アンケート〉
・時間…30~40 分、表情…穏やか、自ら発語…3~4 回、声かけへの返答…毎回、家庭的な雰囲気…まぁ感じた
〈利用者インタビュー〉
・食欲…あまりない、普段との違い…ない、割烹着の印象…新鮮、家庭的な雰囲気…感じた、
→その理由…昔を思い出す

5考察

実施の結果、D様以外は最終的に食欲が上がり、摂取量が普段よりも増えた。
計3回の実施を終えて、現在の高齢者にとって割烹着は母親や昔のことを思い出すことができ、エプロンよりも親しみが持てたのではないかと考えた。ただ、今回は夕食時に3日間という短い時間での実施であったため、対象者が新鮮に感じて結果が出た可能性もある。新鮮さを無くすために、3日間だけでなくもう少し多い日数で日にちを空けずに調査できればさらに分かりやすくなったのかもしれない。また、「割烹着=白」という認識を持った利用者の方が多く、割烹着の色を白で統一したら今回とはまた違った結果が出ることも考えられる。

6まとめ

今回の実施の中で利用者、職員の双方の視点からまとめた結果、職員の視点で見ると、アンケートや実施の中で、職員は割烹着を家庭的だとはあまり感じなかったようであった。これは、職員の年代では家庭で割烹着を使用することがほとんどなかったからではないかと思われる。この他に、普段着用しているエプロンよりも着脱しにくい様子が見受けられた。利用者からの視点で見ると、割烹着は母親や昔を思い出すなど、家庭的なイメージを浮かべる方が多く、個人差はあるが食欲の増進につながることが分かった。
以上のことから、現在の高齢者に対して割烹着は食事の雰囲気を作り出し、食欲を向上させる効果はあると考えられる。

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