こどもの絵本、普通に読むか?より良く読むか?

年度 2017
学科 保育士科 夜間主コース

はじめに

 実習やワークを通して保育園や幼稚園では絵本の読み聞かせを積極的に行っていると感じた。「保育所保育指針」や「幼稚園教育要領」の「言葉」の項目の「ねらい」では絵本や物語等に親しむとともに、言葉のやり取りを通じて身近な人と気持ちを通わせる、日常生活に必要な言葉が分かるようになるとともに絵本や物語などに親しみ、先生や友達と心を通わせるとあり、「内容」では絵本や物語などに親しみ、興味をもって聞き、想像をする楽しさを味わうと記されていた。つまり、保育における絵本の読み聞かせでは子どもが絵本に興味を持ち、想像力を高め、周囲と共感できるよう読まなければならないといえる。
 しかし、同じ絵本を読んでいても読み手によって読み方や絵本の捕らえ方が違い、先行研究でも抑揚をつけて読むべきだと述べるものや抑揚はつけないで読むべきだと述べるもの、読み終えた後に振り返りを行うべきだと述べるものや、子どもの世界を壊さないように振り返りはしてはならないと述べるものがあった。この研究ではどのように読めば子どもたちが絵本に興味を持ち、想像力を高められる読み聞かせになるのかについて明らかにする。

現状把握

 読み聞かせの科学的研究を行った泰羅雅登(2006)「読み聞かせ」の科学的研究及び「子育て」の科学的研究により絵本の読み聞かせは大脳辺縁系と呼ばれる感情や情動に関わる働きをする部分に働きかけていることがわかった。
 泰羅教授は大脳辺縁系を“心の脳”と名づけ心の脳は喜怒哀楽だけでなくわが身をたくましく生かしていく役割があると述べた。嬉しいことは「嬉しい」、怖いことは「怖い」とわかる子どもに育てるにはそのような経験が必要だが、実際に怖い思いをさせるのではなく絵本の読み聞かせを通して「嬉しい」や「怖い」といった思いを体験させてあげることで心の脳が育つという。

研究目的

 絵本の読み聞かせは子どもにさまざまな体験をさせる事ができるということ、想像力を育む事ができるということを考慮し、子どもにとって絵本の読み聞かせがより良い時間となるよう読み方を研究し現場で活かすのがこの研究の目的である。

仮説

 子どもの興味を惹き付けるために年齢や発達に応じた絵本選びを行い、抑揚をつけて読み、振り返りを行うことで子どもの想像力、理解力が高まり、絵本を好きになり、より良い絵本の読み聞かせになるのではないか。

研究方法

① アンケート調査
対象:保育園、幼稚園に実習に行った埼玉福祉・保育専門学校の学生
【アンケート内容】
1.実習先で絵本の読み聞かせをしたか、保育者は読み聞かせをしていたか
2.読み聞かせはいつ行っていたか(朝の会・主活動・お昼・午睡前・帰りの会・その他)
  ※複数回答可
3.どんな絵本を読んだか、保育者が読んでいたか
4.どうしてその絵本を選んだか
② インタビュー調査
対象:図書館で読み聞かせをしているボランティア団体、司書
【インタビュー内容】
1. 絵本選びで考慮している点
2. 読み聞かせに抑揚は必要か
3. 読み聞かせ後に振り返りは必要か

研究結果

① アンケート結果
1.は現状把握参照
2.読み聞かせはいつ行っていたか
  (複数回答可)

3.どんな絵本を読んだか、保育者が読んでいたか
1位 だるまさんシリーズ 9人
2位 はらぺこあおむし 7人
3位 くれよんのくろくん 6人
4.どうしてその絵本を選んだか
○子どもが好きそうだと思った。
○自分が好きな絵本だから。
○年齢、季節にあっているから。
○主活動への導入。
○子どもに伝えたい内容だったから。
 

② インタビュー結果
1.絵本選びで考慮している点
【大宮図書館司書】
○年齢に応じたもの(対象年齢より少し下のもの)
○自分が読みたいと思うもの
○絵がはっきりとしているもの
【ボランティア団体】
○絵、年齢、言葉があっているもの
○シンプルで要点が伝えられるもの
2.読み聞かせに抑揚は必要か
【大宮図書館司書】
子どもの世界、考えを邪魔してしまうため抑揚はつけずに淡々とゆっくり読む。
【ボランティア団体】
あまり同じトーンではなく、つけすぎない程度に抑揚をつける。
3.読み聞かせ後に振り返りは必要か
【大宮図書館司書】
指導的、押し付けになってしまうため、振り返りをせず感想も聞かない。
子どもが感じたこと、子どもの想像を大切にする。
【ボランティア団体】
感想は聞かない。
子どもの考えを大切にし、考えを押し付けない。

考察

 アンケート、インタビュー結果から絵本選びは保育、図書館ともに子どもの興味を惹くものを選んでいるといえる。しかし保育における絵本の読み聞かせは集団で行われ、活動の一部になっているため、静かに座って絵本を楽しむよう促し、子どもの集中を高めるためや人の話を聞けるようになるためなど教育目的で行われていることが多い。一方で図書館で行われる絵本の読み聞かせは子どもが絵本を好きになれるよう、絵本が身近に感じられるよう子どもが集中できる好きな姿勢(立つ、寝転がるなど)や部屋の隅や読み聞かせスペースなど絵本に集中できる環境で読んでいるという違いを感じた。もちろん集団生活を学ぶという点では静かに座って読む事が必要だが、子どもの想像力を育むという点では子どもが集中できる姿勢で読む事が必要だと感じた。
 また、仮説において絵本の読み聞かせには抑揚をつける事、振り返りをする事が重要だと予想していたが、かえって子どもの想像や考えを邪魔してしまうこともあることがわかった。その理由は、読み手の感情により抑揚をつけると読み手の解釈を押し付けてしまうからとのことだった。さらに、抑揚をつけることで子どもの興味が絵本ではなく読み手に向いてしまう可能性もあるとの結果から絵本の読み聞かせには抑揚はつけず淡々と読むことが良いと考えられる。振り返りにおいても、子どもに解釈を押し付けてしまう事になり、子どもが感じた絵本の世界を壊してしまう恐れがあるので振り返りもしない事が望ましいと考える。

まとめ

 今回の研究は保育で行われる絵本の読み聞かせが子どもにとってより良い時間となるような読み方を明らかにするため、保育園や幼稚園での絵本の読み聞かせについてのアンケート調査、図書館での絵本の読み聞かせについてのインタビュー調査を行った。その結果、絵本の読み聞かせの目的は様々で保育では集団生活を学ぶために静かに座って読む事を重要としている場合が多いと感じた。しかし図書館では絵本を好きになる事を重要とし、静かに座って読むよう促すことをせず、子どもの好きな姿勢で集中して読む事を勧めていることがわかった。子どもにとってはどちらも必要な経験であり、今の保育には子どもが絵本を好きになる読み方ができていない園が多いのではないかと思う。静かに読む時間、好きに読む時間と読み方を分けるなどの工夫や、読み聞かせのボランティアを呼んで絵本を読んでもらい、子どもが絵本を好きになる機会を増やす必要があると考えられる。

参考文献

・KUMON(2017) 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科教授 泰羅雅登教授スペシャルインタビュー〈http://mi-te.kumon.ne.jp/contents/article/9-311/〉最終アクセス日2017.10.20
・文部科学省(2009)幼稚園教領
〈http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/you/nerai.htm〉最終アクセス日2017.11.02
・厚生労働省(2017)保育所保育指針
〈http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/〉最終アクセス日2017.11.02

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