読書を通じて児童養護施設に入所している小学生の集中力・読解力・学習意欲を向上させる為には

年度 2015
学科 こども福祉科 (現:保育士科)

1.はじめに

私たちは学校の授業の中で、児童養護施設の子どもたちは入所前に十分な教育環境が整っていなかったなどの影響により、低学力の傾向にあると知った。低学力の原因として、職員や学校の先生の話を聞く力や、教科書・テスト問題を読み解く力、物事に集中して取り組むことが苦手ということが挙げられると考えた。そこで、この理解力・読解力・集中力を向上させる方法として漢字・文章・気持ちの描写がのっている読書や本の紹介、読み聞かせをすることを研究方法とした。そして、普段から読書や読み聞かせの習慣がない子どもたちに読書をする環境を与えることで理解力・読解力・集中力・学習意欲が向上するのかどうかを明らかにしたいと考え、この研究を進めることにした。

2.現状把握

平成25年度全国学力・学習状況調査 福島県調査結果(小学校)

3.仮説

児童養護施設に入所する子どもたちに読書習慣をつけることで、集中力・読解力などがつき、生活の様子や学習意欲に変化があるのではないか。

4.研究方法

(1)目的・ねらい
仮説から、読書習慣をつけることで集中力・読解力などがつき、生活の様子や学習意欲に変化が あるのではないかと考えたため、児童養護施設で本の紹介や読み聞かせなどを行うことで集中力・読解力・学習意欲を向上させる。
(2) 調査対象・協力者
D 児童養護施設
ポスターを作成、各ユニットに掲示させてもらい、有志の子どもを募る。
小学3年生(女)Aちゃん 小学5年生(男)Bくん 小学6年生(女)Cちゃん
各ユニットの担当職員8名
(3) 調査期間 平成27年7月25日~平成27年10月3日
(4) 実施内容
フィールドワークの中で、子ども1人に対し、学生2人を担当につき行動観察を行う。その中で子どもの様子やテストの結果などをそれぞれ記録する。この記録をもとに学生同士でフィードバッグを行い、それぞれの児童にどのような変化がみられたかを検証する。1日1時間〜2時間程度。
(5) フィールドワークのプログラム
1回目
8月22日 本の紹介、事前アンケート
2回目
8月29日 本の紹介、感想アンケート
3回目
9月5日 感想アンケート、国語の文章問題、掛け算の百マス計算、本の紹介、読み聞かせ
4回目
9月12日 本の紹介、読み聞かせ、感想アンケート
5回目
9月21日 感想アンケート、図書館へ行く
6回目
10月3日 感想アンケート、国語の文章問題、掛け算の百マス計算、事後アンケート

5.研究結果

A ちゃん(小学3年生)
・フィールドワークに積極的
・小説5冊 漫画0冊 絵本0冊
○経過
国語文章問題
1回目 周りの子が話をしていると気が散ってしまい、中断してしまった。自分も会話に加わるが、1番最初に問題を終えていた。
2回目 1回目よりも集中していた。途中で問題が解からなくなると、学生に質問をして解こうと努力する姿が見られた。
百マス計算
1回目 3分39秒 満点
2回目 3分33秒 7問ミス
○影響(読解力・集中力・学習意欲) 6回のフィールドワーク中5回参加。初回の国語のテストでは周囲の子どもたちとの会話に夢中になって集中が持続しなかったが、2回目には集中できており、学生に質問する姿も見られた。初めから人見知りが少なく、学生とも戸惑う事なく話をしていた。そのためか、周囲の子どもたち との会話が聞こえると手を止めて加わる姿が見られた。しかし、次第に説明中やテスト中のおしゃ べりが減り、メリハリがつけられる様になった。

Bくん(小学5年生)
・好奇心から遊びに来たという印象
・小説1冊 漫画11冊 絵本6冊
○経過
国語文章問題
1回目 難しい問題に当たるとテストを放棄する場面があったが、声掛けによって最後まで取り組むことができた。
2回目 1回目同様、声掛けのもと行う。難しい問題に当たると考えを放棄してしまうが、一度やる気を出せば集中して行っていた。

百マス計算
1回目 適当に数字を入れて終わらせていた。 5問正解
2回目 声掛けで促すと取り組んでいた。声に出して読みながら取り組んでいた。
3分10秒 1問ミス

○影響(読解力・集中力・学習意欲)
百マス計算にて、1回目は集中できる問題が5問程度であったが、2回目には100問全てに集中して取り組むことができた。読解力の変化では初回は印象に残った場面について学生に説明する場面が見られなかったが、最終的には印象に残った場面・その他の場面について学生に内容を説明するなどの姿が頻繁に見られた。

Cちゃん(小学6年生)
・興味はあるが、感情に出にくい
・小説6冊 漫画5冊 絵本1冊 その他3冊
○経過
国語文章問題
1回目 「解からない」と諦め、手が止まったり答えを要求してきた。声掛けで促すと自分で取り組むことができた。
2回目 1人で黙々と解くようになる。周囲が賑やかでも集中して取り 組むことができた。

百マス計算
1回目 3分22秒 3問ミス
2回目 2分39秒 満点

○影響(読解力・集中力・学習意欲)
テスト時に周囲が賑やかでも集中して行い、百マス計算でも正解率とタイムが上がった。 初回の方では 1 人でイラストを描いており、会話に混ざることが少なく、フィールドワークの取り 組みにも面倒くさいと言ってあまり積極的な参加が見られなかった。学生2人を担当につけて回数を重ねるごとに笑顔と会話が増え、フィールドワーク後には学生の発言に耳を傾け、文句を言いながらも取り組む姿勢が見られた。

6.考察・まとめ

今回のフィールドワークは週1回、1時間〜2時間の本の紹介・読み聞かせを通じて集中力・読解力・学習意欲を向上させることを目的とした。そこで私たちは児童養護施設に入所する子どもたちに読書習慣をつけることで、集中力・読解力などがつき、生活の様子や学習意欲に変化があるのではないかという仮説を立てた。フィールドワークでは小学生3人に学生が2人ずつ担当につき、行動観察を行った。取り組みの中で、読書を通じて集中力や学習意欲を身につけることが出来れば、学力を向上させることが出来るのではないかと感じた。それに加えて、子どもと個別的な関わりを 通じて読書習慣をつけることが、より学習面・生活面での効果が上がるために重要なのではないか と考えた。私たちがこれから保育者や支援者になるにあたり、読書を通じて子どもたちの集中力や学習意欲を向上させたいと考えた時、個別的な関わりも重要視し、この研究を生かしていきたいと考える。

【参考文献】
平成25年度「読書に関する調査」の結果
平成25年度全国学習・学習状況調査 福島県調査結果(小学校)

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