児童養護施設の子どもたちの卒園後に対する不安を軽減するには

年度 2015
学科 こども福祉科

はじめに

私たちは、児童養護施設のこども達が施設を卒園後様々な困難を抱え悩んでいるという事を授 業や実習をしていく中で知った。それは、卒園後の生活について具体的に考える機会が少なく、 社会で生きていく為の知識が不足しているからではないかと考えた。
そこで、生きていくのに必要な知識を身につける事で自身の力で悩みを解決する方法を知り、 卒園後の生活を具体的に想像することで、不安を軽減できるのではないかと考えた。
そのために、生きていくのに必要な知識を題材とした学生手作りの等身大人生ゲームを作成し、 実施しようと考えた。

現状把握

東京都福祉保健局の行った「東京都における児童養護施設等退所者へのアンケート調査報告書」 によると、現在困っていることという質問について、回答者673名中、上位を占めたのが「生 活全般の不安や将来について」(52.1%)、「家族・親族に関すること」(42.8%)「生活費等経済 的問題に関すること」(40.7%)「現在の仕事に関すること」(37.3%)である。(図1参照)
その他にも、『施設入所中に身についたと思うものは何か』という質問については、『掃除・洗 濯』(70.6%)『基本的生活習慣』(56.0%)という回答が多いのに対し、『健康保険や年金の知識 や加入方法』(5.9%)、『自己防衛方法』(7.7%)など、社会に出てからの手続きや、自身の身の 守り方に関することは身についたという回答が少なかった。(図2参照)
また、私たちがフィールドワークを行った際実施した、児童養護施設に在園している中学生を 対象にした将来の不安に関するアンケート調査でも、経済的な不安が回答の上位を占めた。
これらのことから、施設在園中に卒園後必要になる知識を身につける機会が少なく、不安に思 うことが多いことがわかる。そこで私たちは、施設在園中に卒園後必要な知識を得る機会を設け る事が施設の子どもたちの不安軽減に繋がるのではないかと考え、研究を進めることにした。



~東京都における児童養護施設等退所者へのアンケート調査報告書~

仮説

手作りの等身大人生ゲームを通して自身のこれからの人生について考える時間を設け、知識を身につけることで、卒園後の生活を具体的に想像し不安に感じている理由・解消のきっかけになるのではないか。

研究方法

(1)目的・ねらい
学生手作りの等身大人生ゲームを作成し、遊びを交えて知識を提供することで、施設在園児が 自分の将来について具体的に想像し、不安解消のきかっけになるかを検証する。

(2)実施内容
児童養護施設に入所している中学生全17名にアンケート調査を行い子どもたちの将来についての現状把握を行う。
その後、意欲・興味のありそうな中学生2名と中学生から話を聞いて興味を持ってくれた高校生1名を対象に、作成した等身大人生ゲームを実施。子ども一人に対し説明担当の学生を一人付け、進行をしながら行動観察を行う。
子ども一人あたり平均4回等身大人生ゲームを実施し、途中から擬似紙幣を導入。実施後毎にアンケート調査を行う。

3)実施期間
・平成27年5月6日(水) 中学生対象アンケート調査実施
・平成27年9月20日(日)〜平成27年10月20日(火) 等身大人生ゲーム実施

研究結果

*Aくん(中学2年生)
・開始当初から意欲的 特別支援学級に在級
○事例
実施前のアンケートでは『人間関係』『学校生活』について不安に感じていると答えていた。
・1回目:1つひとつのマスを真剣に読み積極的な質問もあった。
・2回目:では何度か止まったことのあるマスについて理解し説明できるようになった。
・3回目以降:擬似的な紙幣を使用し、具体的にかかる金銭を視覚化したことで現実味が増した ためか内容が理解しやすくなったと答えていた。
最終日のゲーム後に実施したアンケートでは、「自分の将来について何が必要になるか考えること ができた」と答えていた。

*Bちゃん (中学2年生)
・意欲に波がある 興味のあることには積極的に参加する
○事例
実施前のアンケートでは、『施設卒園後や進学してからの事などに関して考えていない』とい う回答であった。
・1回目:
大学に進学希望という事、一人暮らしがしたいという事が学生との会話で分かったが、ゲームを進行することの方に興味を示しマスの内容にはあまり関心を持たなかった。
・2回目:
所得税、健康保険、年金などの知識は元から身についており金銭的な知識には興 味があったのか、その後止まったクレジットカードの説明も理解し、少しずつ興 味を持ってくれた様だった。 ・3回目以降:
途中から導入した擬似紙幣は、金銭の計算を面倒くさがりながらも真剣に数える 様子が伺えた。 最終日のゲーム後に実施したアンケートでは、『施設卒園後のことを毎日考えようと思った』 という回答に変化した。

*Cちゃん (高校1年生) ・意欲的 卒園後必要な知識に非常に興味を持っている 特別支援学校に在学中
○事例 実施前アンケートは、中学生対象にしか行っていないため回答なし。
・ 1回目:実施後のアンケートで、卒園後は進学せず就職すると言っており、就職に向けて目標を持ち日々生活しているため、『卒園後自分の力で生きていけるか』『就職したときに 長く勤められるのか』など卒園後は、保護された環境からいきなり一人で生活するこ とになるため不安に思っていると答えていた。
・ 2回目:擬似紙幣を導入すると、自分の思った以上に支出の多いことを実感したようだった。
・ 3回目:3回ゲームを行った結果、止まったマスの8割方を理解して説明することができるよ うになり、Cちゃん自身も「今まで知らなかった知識を知ることができた」と話していた。
実施後アンケートでは、『今、不安に感じている事はなにか』という質問に対して「なし」という回答に変化した。

~フィールドワークの様子~

考察

今回のフィールドワークを行うことで、社会に出てから必要な知識を得るきっかけとなり、子どもによっては、自身がどんなことを不安に思うのか具体的に分かった様子であった。
実施前のアンケートと実施後のアンケートでは、不安に思っていること自体は変わらなかったが、『知らない不安』と『知ったからこその不安』へと気持ちが変化した子や、卒園後の生活に関心を持ち、「今後考えて行きたい」と回答してくれた子、様々な知識が身に付いた事で「卒園 後の不安が解消された」という子など、3 人それぞれ回答は異なるが卒園後の生活を前向きに考えられるように気持ちに変化が生じた様子が見られた。
これは不安軽減のきっかけを作ることができたと考えられ、仮説は検証できたと言える。

まとめ

今回行った等身大人生ゲームは、数回ながらも子どもたちの卒園後の不安軽減のきっかけを作 ることにある程度の効果が見られた。今後も継続的にこのゲームを行うことができれば、知識が より深く身につき、卒園後の悩みや不安を自分の力で解決できる力が身に付く様になると考えられる。
しかし、このゲームはあくまで意欲的な子どもたちに対して効果がみられるもので、子どもた ちの中にはまだ卒園後の生活について考えられず参加に意欲的でない子どもたちが多数おり、そういった子どもたちに『今後どのように不安を軽減する知識を得てもらうか』という事が課題である。
私たちがこれから支援者となるにあたって、卒園後の自立に向けての 1 つの手段としてこうい ったフィールドワークの機会を積極的に取り入れてもらえるように、働きかけていきたいと思う。

参考文献

・東京都福祉保健局 報道発表資料 2011 年 8 月掲載
「東京都における児童養護施設等退所者へのアンケート調査報告書」 https://www.paypal.com/jp/home

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