中学生が介護の仕事に興味を持つために ー 職場体験プログラムの作成と実践 ー

年度 2016
学科 介護福祉士科

1.はじめに

2025年には、団魂の世代が 75歳以上の後期高齢者となり、全人口の 18%になるとされている。厚生労働省「介護職の需要動向」によると、2025 年度に介護職員数は約 253 万人が必要とされているが、このままでは約 38 万人が不足すると推計されており、介護人材の確保は重要な課題である。そこで、私たちは介護現場の人材不足に目を向け、介護人材の不足を解消するためには、10 年後の社会で新たな働き手となる中学生が、介護現場に興味を持つことが重要であると考えた。

2.現状把握

①中学生がもつ「介護のイメージ」についてアンケート調査を実施した結果から、介護施設(老人ホーム、デイサービス等)での仕事について、「知っている」が 50%、「興味がある」が 28%という結果になった。調査対象者は、埼玉県内の中学生110 名(男子 48 名、女子 62 名)であった。

②埼玉県内のM中学校の教諭に職場体験の実施状況についてインタビュー調査を実施した結果、次の 2 点が明らかになった。
a. 学校では、福祉に対する取り組みとして、公民や家庭科の授業の中で、福祉の勉強や車椅子体験を行っている。
b. 中学生は介護施設に職場体験へ行くと、高齢者に「触れてしまって大丈夫なのか」「怪我をさせてしまったらどうしよう」などの不安がある。

③M中学校の職場体験を受け入れている介護施設7施設に対し、実施状況についてのアンケート調査を行った。その結果、次の 4 点が明らかになった。
a. 施設職員からの視点では、中学生が前向きに興味を持って取り組んでいた体験は、コミュニケーション、レクリエーションが多かった。
b. 職場体験を好意的に受け入れている職員が多い。
c. 今後の人材確保として中学生の職場体験は重要だと思っている職員も多い。
d. 受け入れの課題として、職員が付いていられず、「中学生に様々な体験をしてもらう事ができない」「中学生と関わる時間がない」などの意見が挙げられた。

3.仮説

以上の現状から、コミュニケーション等の講座を行うことで、利用者とより関わりやすくなるのではないか、レクリエーションを取り入れることで高齢者と一緒に何かを行うことは楽しいことを実感できるのではないか。またこれらをふまえ、中学生が楽しいと思えるプログラムを作成し実践することで、介護現場に興味を持ち、介護の仕事に対するイメージが変わるのではないか、と考えた。

4.研究方法

介護老人保健施設と連携し、中学生の職場体験プログラムを企画、運営した。
・実施施設:埼玉県内の介護老人保健施設 S
・研究期間:平成 28 年 11 月 16 日~18 日
・対象者:中学生 13 名(男子 4 名、女子 9 名)

・本職場体験プログラムのポイント:
①利用者と関わりやすくするために、コミュニケーション講座を取り入れた。
②中学生に認知症についてもっと知ってほしいという意見から、認知症講座を取り入れた。
③施設を利用している高齢者について知る機会を設けるため、埼玉福祉専門学校の学生と一緒に考えたレクリエーションを取り入れた。

本プログラムの作成から実施までの手続き
①学生と施設職員が協働して職場体験プログラムを作成する。
②学生が講師になるコミュニケーション講座・認知症講座を企画・実施する。
③中学生が考えたレクリエーションプログラムの補助を担う。
④体験前後の介護に対するイメージについてアンケート調査を実施する。

5.研究結果

職場体験実施後のアンケート調査からは以下のような結果が得られた。
①介護の仕事に「興味を持った」という中学生が職場体験前の 4 名から 7 名に増加した(図 1)。
②私たちがプログラムに取り入れたコミュニケーション講座、認知症講座は興味の有無により内容の理解に差があった。
③講義を受けたことにより、介護の仕事は「自分にはできない」と思う生徒もいた。
④施設の体験で楽しかったことは、「ティータイム」(飲みたいお茶の希望を伺い配膳する時間)9 名、「一芸活動」(ピアノ等の職員の特技を活かした活動)の見学 8 名といった研究実施施設の特徴的な取り組み、レクリエーション等の利用者と関わる時間 5 名やレクリエーションの企画(みんなで考える時間)4 名、という結果が出た(図 2)。

6.考察

職場体験後のアンケートで、介護の仕事に「興味を持った」という中学生が増加した背景としては、利用者と関わることの楽しさや、レクリエーションを考えて実施する楽しさを実感できたためであると考えた。一方で、私たちがポイントとしてなかった「ティータイム」や「一芸活動」といった研究実施施設の特徴的な取り組みが人気だったことは予想外の結果であった。これに関して、ティータイムでは、利用者の飲みたい物を聞いたりすることで、コミュニケーションのきっかけになり、自然に会話できた為人気だったのではないかと考えられる。また、中学生が「一芸活動」の見学を通して、「介護現場は自分の特技や好きなことを活かせる職場である」と認識した可能性も考えられる。

7.まとめ

介護の仕事は、業務の体験のみでは「大変な仕事」というイメージを持ってしまいがちである。しかし、本研究の結果から、中学生が興味を持っていることや関心のあることをヒアリングした上で生徒たちの特技を活かしたり、皆で何かを考え実施するような内容を取り入れたりすることにより、さらに介護の楽しさを伝えることができ、介護の仕事に興味を持つきっかけになるのではないかと考えられる。

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