高齢者施設の業務を用いた利用者の QOL 向上と自立支援の検討

年度 2016
学科 介護福祉士科

1.はじめに

高齢者施設において、介護職が「○○さんわたしがやるので座っていていいですよ」。「○○さん職員がやるからいいですよ」など利用者がつい手伝いをしようとする行為に声をかける場面をよく見かける。
介護の現場では、本来介護職がやらなければならない業務以外に、利用者ができるような ことも業務として介護職が行っていることが多く、過介助ではないかと感じることがある。その過介助をしてしまうことで利用者の役割を奪うことにもつながっているとも思われる。利用者の残存能力を生かして、施設の業務などを一緒に行うことにより、利用者にとっても日常生活における役割ができて QOL 向上と自立支援につながると思われる。
本研究では、高齢者施設の業務内容を把握し過介助であると思われることを利用者と一緒に行い、その効果を検討した。

2.仮説

高齢者施設の業務を見直す中で利用者も一緒に行うことができる業務を絞り込み、一緒に行うことで、利用者に役割ができ、自立支援・QOL向上につながる。

3.研究方法

<対象者>
介護職員、施設利用者(男性0人 女性7人 平均年齢82歳)
<手続き>
1. アンケートを実施して、各施設の業務内容の洗い出しをした。
2. 業務内容の中で、利用者と一緒に行えると考えられる業務の洗い出しをした。
3. 業務内容のチェックの結果をもとに、1ヶ月程度利用者が手伝える業務を職員と一緒に行った。

4.研究結果

1. アンケート結果より高齢者施設の6時~18時の業務を大まかに分類すると、主に24 項目の業務があり、トイレや居室、食堂などへの誘導が多く、次にトイレやオムツなどの排泄が多いことがわかった。(図.1)
2. アンケート結果の24 項目の業務の中から高齢者施設利用者のADL、利用者の尊厳の保持、利用者の家族の価値観、実施施設の方針など総合的な観点から、利用者と一緒に行えると考えられる業務を①たたみ物(おしぼりやエプロンなど)②入浴衣類準備③テーブル拭き④リネン交換⑤下膳・配膳(お茶・おやつ・食事)⑥準備(お茶・おやつ)⑦衣類返却の 7 項目とした。

対象利用者の女性 7 人に実施をし、全員がテーブル拭きとたたみ物をおこなうことができた。次に配膳・下膳に関しては6人が下膳を行うことができた。配膳ではお盆の上に薬が乗っているため、誤薬のことも考え実施できなかった。更にリネン交換では5人が行うことができ、言っていることを理解しやすい利用者はスムーズに行うことができた。衣類に関することでは3人が行うことができ、認知症などにより整理整頓が難しく居室に衣類が散らばってしまう利用者もいた。
以下に、介護度の異なる対象者の結果を詳細に示す。

T さん 女性 84才 要介護度 3
たたみもの、テーブル拭き、リネン交換、下膳、準備の 5 項目が一緒に行うことができると考えられたため5項目を実施した。
まずエプロンたたみでは、1度たたみ方を見本で見せてからたたんでもらうと15枚程度のエプロンを5分ほどで終えていた。たたんでいる最中に他の利用者も集まってきて、「手伝おうか?」と声をかけられる場面もあった。その際は「一緒にやりましょう」と答えていた。
次にテーブル拭きではテーブルを拭きながら、テーブルに座っている利用者に対して「ちょっとテーブル拭かせてね」と明るく接しながら笑顔でおこなっていた。途中拭き終わったテーブルをもう一度拭く行為が見られ、拭き終わっていないテーブルを教えすべてのテーブル11台を拭き終わるのに4分程かかった。
更にリネン交換では T さんと職員二人一組になって行いシーツの交換のやり方を教え、1台のベッドを仕上げるのに5分ほどかかった。
更に下膳に関してはいつも何も言わなくても T さん自ら食事を下膳してくれるため、見守りのみ行いながら下膳していただいた。
更に入浴衣類準備では、T さんをタンスまで誘導し次回の入浴の際に着替える服を準備できるかをお願いし準備していただいた。靴下を準備し忘れていたため、「ほかに足りないものはありませんか?」と聞くともう一度見直し、靴下をいれることができた。

Y さん 女性 72歳 要介護1
たたみもの、衣類準備の2項目が一緒に行うことができると考えられたため 2 項目実施した。
まずエプロンたたみでは声をかける前に Y さん自らエプロンをたたみ始めていたためそのままみまもりを行い他利用者と会話をしながら15枚程度のエプロンを10分程度で終えていた。次に入浴衣類準備では、Y さんが車いすを使用していることから、自分で衣類を準備できない。そのため介護職が Y さんのタンスから衣類をベッドの上に出して衣類を選んでもらい準備できた。

5.考察

研究結果より、高齢者施設で行われている業務内容の3割程度は、利用者と一緒に、または利用者単独でも行うことが可能な業務内容と考えられる。また、利用者と一緒に行ってもいいと思われる業務を判断するのには、さまざまな視点から評価をする必要がある。実施した人全員がエプロンたたみや、テーブル拭きをできたのは、説明も簡単であり利用者にとっても実行しやすい内容だったためと考えられる。一方で衣類に関しては、選んだものを忘れてしまったり、選んでいるうちに衣類が散乱し探しにくくなってしまったりと、個人差が生じた。実施後では「もっとほかにやることはないの?」という言葉を言った利用者もいたため、高齢者施設に入所していても、まだ仕事をしたい!と感じている利用者も多いのではないか。
今回の実施を通して本来利用者がさまざまな業務を自身で行うことができることがわかり、そのことが利用者の自立支援につながったと思われ、役割を持つことができる可能性が示唆された。しかし今回の研究で利用者と一緒に行ったことは、あくまでごく一部のことであり、高齢者施設に入所してしまったからといって役割が何もないわけではなく、本当はできることがたくさんあり、施設の職員が利用者の「できる活動」「する活動」をなくしているとも感じられる。介護現場ではもっと利用者の「できる活動」「する活動」に目を向け支援していく必要がある。また施設職員と利用者が一緒になって施設をつくりあげることができれば、利用者の自立支援や QOL 向上につながるとともに、近年話題となっている介護の人材不足も少しは解消できるのではないかと思われる。

6.まとめ

本研究より、介護現場で行われている業務の中で、一緒に行える業務を洗い出し、その業務を施設利用者でも行うことができるということがわかった。また業務を一緒に行うことで役割を持ちQOL 向上につながる可能性が示唆された。

7.参考文献

・内匠 功 介護職員の人手不足問題 生活福祉研究 通巻 88 号 2014
・藤田麻里,林 恭平,小笹晃太郎,渡邊能行,濱島ちさと,施設高齢者の生きがい感と QOL との関連について,厚生の指標 48(8),22-27(2001)

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