高齢者施設においてメイク・おしゃれ等を行う環境をつくるために

年度 2016
学科 介護福祉士科

1. はじめに

私たちは、外出時や人と会う時はメイクやおしゃれ等を当たり前のようにしている。しかし、実習を通して施設で暮らす高齢者がこれまでの生活で日常的にメイクやおしゃれ等をしていた方も、その機会を十分に持てていないと感じた。そのような中、利用者の生活を支える介護職まで利用者が当たり前に行ってきたメイクやおしゃれ等に対して、より関心を持つ必要があるのではないかと思い、研究を始めた。
近年、福祉に対する考え方は、ICIDH(国際障害分類)といったマイナス面に着目したものではなく、ICF(国際生活機能分類)といったプラス面に着目し、6 つの構成要素が相互に作用しているという考え方に転換している。研究を進めていくうちに、私たちは ICF(国際生活機能分類)の 6 つの構成要素のうち、「環境因子」に着目するようになり、介護施設で利用者にメイク・おしゃれ等を行っていない背景には、施設や職員側に何かしらの弊害が生じているからではないかと考えた。
なお、先行研究によれば、メイク・おしゃれ等を行う行為には、「気分が前向きになる」、「身体機能のアップ」等の効果が実証されていた。また、高齢者のおしゃれへの関心度が高いというデータもあった。

2. 現状把握

まず私たちは、実際高齢者施設で働いている職員がどのようなことに対して弊害と感じているのかを知るために、アンケート調査を実施した。
◆実施期間 9 月中旬
◆実施施設 介護福祉士科の実習先から選んだ 27 施設
◆アンケート内容
・施設で利用者に対しておしゃれ等をどのように(誰が)実施しているか?
・施設で利用者に対しておしゃれを実施するにあたり、弊害になっている事はあるか?
・施設で利用者に対しておしゃれ等をする機会を今後導入もしくは増やしたいと考えているか?

3. 仮説

高齢者施設でメイク・おしゃれ等を実施するにあたり、施設や職員側の「人手不足」「時間がない」「知識・技術不足」などの弊害を解消するプログラムを提案することで、メイク・おしゃれ等を楽しむ環境をつくることができるのではないか。

4. 研究方法

アンケート調査に協力いただいた施設から1施設に協力をいただき、利用者にフェイシャルメイク・ハンドマッサージネイル等を提供するアクティビティを企画・実施した。

◆実施施設 K 施設(デイサービス・ショートステイ)
◆実施期間 11月上旬(デイサービス 1 回・ショートステイ 1 回)
◆実施手順
①実施施設と打ち合わせ、利用者の事前アセスメント・アンケート
②フェイシャルメイク・ハンドマッサージネイル等の実施
③結果のフィードバック・提案

◆実施 工夫した点
◎「人手不足」「時間がない」「利用者が望んでいるかわからない」
→実施前週に利用者に対してアンケートを行い、実施内容の絞り込みを行った。
→実施者(学生)が利用者の席を回り、利用者の移動時間を短縮した。
◎「知識・技術がない」
→短期間で技術習得のできるハンドマッサージを実施した。
◎「コスト面」
→なるべく日常的に使用する物品を活用し、購入物品を最小限に留めた。

5. 研究結果

アクティビティ実施後、報告書を作成の上で改めて施設を訪問し、施設長よりフィードバックをいただいた。
◆ショートステイでの実施は日常的に取り入れるのは難しい、週末以外の利用者が少ない日や職員の多い日に提供する事は可能だと思う。
◆実施の際,ネイルの待ち時間が長く感じた。
◆ハンドマッサージは誰にでもできていいと思う。
◆化粧を本格的に導入することで、施設のアピールポイントとなり利用者の集客につながるのであれば、多少のコストをかけても構わないと思う。
◆非日常的な機会を提供する事で利用者の笑顔が見られ、楽しんでいる様子であった。

6.考察

今回私たちは、学生ボランティアという形で訪問したが、職員が実施することも想定し、なるべく限られた時間と人数で取り組める内容で実施を行った。ハンドマッサージについては比較的短時間で取り組めるため、日常のケアの中で導入しやすいと考えられるが、ネイルについては、乾く時間が項目ごと(ベース・色・トップコート)に5分程度かかるため、所要時間が短くても15分かかる。職員が1対1でつく時間が多く必要となるため、職員間の役割分担等の工夫が必要であることが明らかになった。
知識・技術の習得に関して、ハンドマッサージについては、介護老人保健施設 S 施設での利用者に対する実施場面の見学・施術練習、学生同士での練習、個人での練習などに約10時間を要した。メイク・ネイルについては、日常的に職員自身が自分にしている範囲内であれば、改めて練習をする時間をとることなく実施することができると考えられるが、衛生面の留意や肌トラブルなどに対する知識は最低限身につける必要があることに気づいた。
コスト面については、利用者がこれまで使っている物を活用するなどにより、最小限に留める工夫ができると考えられる。また、フィードバックでもあった「化粧を本格的に導入することで、施設のアピールポイントとなり利用者の集客につながるのであれば、多少のコストをかけても構わない」という意見から、施設のコンセプトと利用者のニーズによっては、有料サービス導入のニーズもあると考えられる。

7.まとめ

今回、メイク・おしゃれ等を楽しめる環境をつくるため、施設や職員側の「コスト面」「人手不足」「時間がない」などの弊害を解消することを目指し、プログラムを提案した。実施中は、利用者の方からは笑顔や前向きな発言が見られたが、今回私たちが取り組んだ内容を施設で日常的に取り入れていくには、役割分担や時間配分などの工夫が必要であると気づいた。
今回の研究を通し、利用者のニーズに応えていくために、「環境を整える」という重要性を再認識することができた。就職後は介護福祉士として、ICF の考えに基づき、利用者のニーズに応え、その人らしい「参加」を実現していくために、環境を整える様々な工夫をしていくことに取り組んでいきたい。

8.参考文献

http://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h26/sougou/zentai/index.html 平成 26 年度 高齢者の日常生活に関する意識調査(内閣府) http://www.careshikaku.com/feature_guide/cosmetictherapy
(化粧療法について)
http://dspace.bunka.ac.jp/dspace/bitstream/10457/1066/1/001032119_05.pdf#search='%E9%AB %98%E9%BD%A2%E8%80%85%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E8%A3%85%E3%81%84%E3%81%B8%E3 %81%AE%E9%96%A2%E5%BF%83'
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