玩具箱の工夫 ~気持ちを切り替える為の片付けの方法~

年度 2016
学科 こども福祉科 (現:保育士科)

1. はじめに

片付けは、“整理・整頓をする”という目的以外に、“環境の切り替え”や“気持ちの切り替え” として用いられる。私たちが幼稚園・保育所へ実習に行った際にも同様に片付けが行われていた。しかしその際、片付けの時間に玩具箱に片付けた玩具を再び取り出し遊んでしまい、次の活動に気持ちを切り替えることが出来ない子どもの姿が見受けられた。そこで玩具箱に工夫をすることによって子どもの気持ちの切り替えが出来るのではないかと考え、研究を行うことにした。

2. 現状把握

多くの幼稚園・保育所では、保育室の中に玩具箱があり、その環境の中で子どもたちは生活している。そして玩具を決まった箱に片付けた後、環境や気持ちを切り替えるために玩具箱を部屋の隅に寄せたり、箱に布を被せたりして子どもに見えないようにしていた。私たち幼稚園・保育所ゼミが運営を行っているエンゼルキッズでも同様である。
エンゼルキッズは、0~3歳程度の未就園児が遊んだり、保護者同士の交流の場になったりする子育て支援広場である。エンゼルキッズでも自由遊びが終わると片付けを行い、次の活動に気持ちを切り替えられるように促すが、その際に次の活動に意識を向けることが出来ない子どもの姿が見受けられた。

3. 仮説

玩具が子どもの視界に入る場所にあったとしても、玩具箱に子どもにとって親しみのあるイラストの蓋をつけることで、子ども自身が納得して、次の活動に気持ちを切り替えられるのではないか。

4. 研究方法

(1) 研究期間
9 月 16 日(金)~10 月 28 日(金)

(2) 研究対象
エンゼルキッズに遊びに来る 0 歳~3 歳の子ども(19 名)
0 歳児 3 名 1 歳児 6 名 2 歳児 4 名 3 歳児 6 名

(3) 環境設定
・使用する玩具は、ままごと道具・ブロック・ミニカー等の車。
・玩具箱は常に保育室内に置き、常に子どもの目に触れる場所に置いておく。

(4) 実施
玩具箱に以下の通りに蓋を取り付け、蓋がない場合とある場合で子どもたちの片付けの様子に変化が現れるかを観察する。

5. 研究結果

フィールドワークを実施した結果、子どもの年齢によって違いが見られた為、年齢ごとにまとめる。なお、表中の回数については研究に参加した回数とする。
○1 歳児
これまでのイラストのない玩具箱では、興味を持てず片付けに参加していなかった子どもも、蓋を付けたことで玩具箱に興味を持ち片付けに参加することが出来た。しかし、学生が「朝の会始めるよ」と促してもなかなか玩具箱から離れることが出来ず、主活動へと気持ちの切り替えが出来たとは言えない。

〇2 歳児
キャラクターに物を食べさせるという動作に興味を持ち片付けを行っていた。そのため口のない車の玩具箱からは玩具を取り出し遊んでしまったが、口のある玩具箱では玩具を取り出すことなく次の活動に移れた為、口のある蓋に限っては気持ちの切り替えが出来たと言える。

〇3 歳児
蓋の付いていないときは、片付けが終わった後もまだ遊びたがっている様子で活動中にも玩具箱に近づいていた。しかし蓋を付け片付けをした後に、学生が片付け終了の声掛けをすると片付けが終わったことを理解し、遊びたがっている様子も見られなくなった。さらに、学生と一緒に玩具箱を保育室の隅に寄せている様子も見られた。このことから、玩具への意識を次の活動へ移すことが出来たと考えられるため、気持ちの切り替えが出来たと言える。

6. 考察・まとめ

○1 歳児
乗り物や動物など色彩豊かな絵や写真を好むようになるという発達の特徴がある。その為、これまでのイラストのない玩具箱では、興味を持てず片付けに参加していなかった子どもも、蓋を付けたことで玩具箱に興味を持ち片付けに参加することが出来た。しかし、学生が「朝の会始めるよ」と促してもなかなか玩具箱から離れることが出来ず、主活動へと気持ちの切り替えが出来たとはいえない。
また、普段は片付けに対して消極的だった保護者が、蓋を付けることによって子どもに「アンパンマン可愛いね」「お腹一杯にしてあげようね」などと声を掛けたり、玩具を渡したりして、片付けをしている環境の中に自然に入ることが出来た。

○2 歳児
口のない車の玩具箱からは玩具を取り出し遊んでしまっていたことから、キャラクターに物を食べさせるという動作に興味を持ち片付けを行っていたと考えられる。そのため、口のあるイラストを使用しイラストに物を食べさせるという動作に見立てて片付けを行うことで、玩具箱から玩具を取り出し遊ぶことなく次の活動へ気持ちを向けることが出来たといえる。
また、声掛けの幅が広がり、保護者が子どもに対して声を掛けやすい為、子どもが片付けに対して意欲的になるというような効果も見られた。

○3 歳児
片付けが終わったら学生が「お片付けありがとう。アンパンマンもお腹いっぱいになったし、お部屋も綺麗になったね」と声を掛けると、子どもは片付けが終わったことを理解し、学生と一緒に玩具箱を保育室の隅まで運んでいた様子から、主活動に向けて気持ちが切り替えられたといえる。
また、社会性が発達し周りの友達に興味を持ち始めるので、友達と一緒に玩具を片付けたり、年下の友達に声を掛け教えてあげたりする様子が見られた。

○全体
研究の結果、言葉が未発達な 1・2 歳児は、蓋の意味を理解して片付けに取り組むことはできなかったが、蓋自体に興味を持ち片付けの環境に入ることが出来た。保護者も蓋があることによって声掛けの幅が広がり、子どもが片付けに対して意欲的になるという効果も見られた。しかしその反面、車の蓋は他 2 種類に見られたような効果は見られず、片付けた後玩具を取り出してしまうような場面も見られた。理由としては、形が複雑で表情がないことが考えられる。子どもの好きな丸い輪郭のドラえもんや、きかんしゃトーマスなどの方がより効果的であったのではないかと考える。
3 歳児は、始めは蓋があることに対して戸惑っていたが、回数を重ねるに連れてどの玩具箱に何の玩具を入れるのか自ら蓋を見て判断することが出来た。また、蓋をきっかけとして友達に声を掛け一緒に玩具を片付けたり、年下の友達に玩具の片付ける場所などを教えてあげたりする様子が見られた。

7. まとめ

研究を行ってみて、玩具箱にイラストなどの蓋を付けることで子どもが蓋に対して興味を示し、次の活動へ気持ちを切り替えられるということが分かった。それだけでなく、保護者も子どもに対してやる気を誘発するような声掛けや、撫でたり拍手をしたりといった褒める行為が増えたことから、仮説を検証する以外にも子ども同士や、子どもと保護者との関わりのきっかけを増やすことが出来たといえる。
また保護者の方から「この玩具箱、家でもやってみたい」という感想をいただき、子育て支援に繋がったのではないかと考える。今回の研究を生かして、片付けの場面だけではなく保護者と子どもが楽しく日々を過ごせるような工夫を自分たちで考え、発信していけるようこれからも試行錯誤していきたい。

<参考文献>
●Gakken「0~3歳のちから」(著者:松浦広紀)
●ベビータウン http://www.babytown.jp/hyakka/index/html

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