児童に対する障害理解教育

年度 2015
学科 社会福祉士養成科

はじめに

私たちは、私たち自身が小学生の頃、小学校に障害のある子が通っていても、障害理解教育といえる授業を受けた記憶があまりないことに気がついた。そこで、現在の小学校では障害理解教育が行われているのか、また、どのような障害理解教育が行われているのか疑問に思い、調べることにした。

現状把握

先行研究を調べた結果、国語や道徳、社会等の教科や、「総合的な学習の時間」を利用して障害について学習しているが、「障害理解教育」を教育課程に位置づけて系統的に指導している小学校は少ないことがわかった。実施されている障害理解教育の内容としては、「障害者の感じるバリア」が、方法としては「障害疑似体験」が最も多く、単に疑似体験を行ったり知識を学習したりするだけでは、「障害者はかわいそう」というイメージを持つことに繋がる可能性がある。 1

また、障害理解教育の実施率は、学級内に障害児がいる場合では7割であるのに対し、障害児がいない場合は4割となっている。 2

さらに、障害理解教育として小学校の第5学年に、障害者の歴史の学習や疑似体験、作業所訪間を実施した。その結果、障害者に対して「かわいそうだと思う」という意見は減少したが、目的であった「児童が障害者に対して親しみを持つ」ことは難しかったと述べられている。 3

問題提起

・現在、主に行われている障害理解教育の内容と方法では、児童に「障害者はかわいそう」という意見を持つことになる可能性が否定できない。
・学級内に障害児がいるか否かで障害理解教育の実施率に差があり、障害児がいない学級は実施率が低い。
・児童が障害者に対して親しみを持つことができるようにするためには、工夫が必要である。

仮説

「総合的な学習の時間」内で、どのような障害であっても行うことが出来る障害理解教育の方法を考案する。そして、実施する授業の内容を、障害についての学習や障害疑似体験を行って障害について学ぶのではなく、障害者とはどのような人なのか、実際に関わることで感覚的に学ぶものとする。
その結果、「障害者はかわいそう」というイメージを持つことを避け、「障害者と言っても、思ったより普通の人だ」というイメージを持ってもらうことで、親しみの感覚が生まれると考えた。

研究方法

本来であれば、小学校に協力を依頼し研究を実施することで正確なデータを得るのが普通である。しかし、小学校の授業はすべて年間授業計画に沿って行われていることや、行われる授業には教育的価値の必要性が認められなければならない等の観点から、実施することが困難であった。従って本研究は児童に対して有効なものであるのか、どの学年に対して最も有効なものであるのかを検証ずるために、学童保育の児童を対象とした。
実施する障害理解教育の内容は、児童と障害者がコミュニケーションを取ることに比重を置くため、児童と障害者が共に参加し楽しむことができるレクリエーションを組み込んだ。
また、小学校の授業の時間が1コマ45分であるので、それに従い本研究の障害理解教育の実施時間を45分間に設定した。
なお、授業前の児童の障害者に対するイメージを把握するため、事前にアンケートを行う。アンケートの内容は「障害を知っているか」「障害に対してどのようなイメージを持っているか」の2項目に絞った。

授業の詳細は以下の通りである。

研究結果

残念ながら、現時点で実施は出来ていない。事業団との話し合いで、10月27日に実施すると決まっていたが、中止となったのである。その最大の理由は、卒業研究発表会に間に合わせなければならないということに囚われ、実施を急ぎすぎてしまったからである。
具体的には、実施を急いだために、①対象となる児童•利用者の特性を知り、レクリエーションの内容に反映することが出来なかったこと、②児童•利用者やその保護者の理解を得るための対応が不足していたこと、③実施の際に考えられるリスクの計算を欠いていたことから、実施を見送った方が良いという判断が下ったのである。

考察

学校の科目に組み込まれているこの卒業研究だが、これを進めていくには、外部の人間や施設の協力が不可欠である。例え学校と関わりの深い施設でも、協力を得やすいというだけで、実際に協力して頂けるかは、研究を進める主体である私たちにかかっている。どのような目的で、どのような協力が必要なのかを明確に提示する必要がある。
また内容によっては、利用者にも協力を依頼しなければならない。その際には、利用者本人だけでなく、利用者の保護者にも研究の趣旨を理解して頂き、了承を得る必要がある。個人情報やプライバシー、研究の中の企画に参加した際の事故・精神面への影響等、研究に協力することのリスクは、思っている以上に多い。刹用者の安全は、確保されなければならない。
そこで重要となるのが、実施の際のリスクの計算である。福祉をより良いものにしようという善意の研究であっても、先に述べた通り、リスクは必ず存在する。空てた企画において考えられる、あらゆるリスクを想定し、企画そのものを工夫したり、対応するための策を考えたりすることが必要なのである。
さらに、企画の内容が利用者に適したものであるかということも、吟味する必要がある。計算された企画であっても、利用者の特性からズレが生じていれば、その分効果は薄まり、リスクも大きくなる。利用者の特性を踏まえて適切な立案が出来ているのか、あるいは企画に対して適切な対象者が選定できているのか、という根本的な部分にも、考慮することが必要なのである。

まとめ

考察で述べたことは、社会福祉士として当たり前の事柄である。
社会福祉士には倫理綱領というものがあり、その中の専門職としての倫理責任には、「(調査・研究)仕会福祉士は、すべての調査・研究過程で利用者の人権を尊重し、倫理性を確保する」とある。
倫理という表現ではわかりにくいが、簡単に言えば「人として守るべき道、道徳」のことである。
従って、倫理綱領は社会福祉士の基本となるものであり、本研究のような失敗は、あってはならないものであったと考えられる。
しかし、今回このような失敗をしたことで、私たちには何が欠けていたのか、研究を進めるに当たって何を考慮しなければならなかったのか、改めて気が付くことができた。これはこのような研究に限ったことではなく、イベントやレクリエーションを企画する上でも、考慮しなければならないことである。実施が出来なかったことは非常に残念だが、このことに気付くことができたのは、社会福祉士を目指す者として、貴重な経験になった。
今後は、今回学んだことを、実際の現場で実践できるように、残りの学生生活を有意義に送っていきたい。

1加賀谷勝「小学校における障害理解教育」
2五十嵐ひとみ「小学校の通常の学校における知的障害理解に関する調査報告」
3楠敬太「児童の発達段階に応じた系統的な障害理解教育に関する実践的研究」(平成23年8月31日)

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